胸に手を置かれたら、朋也くんのことしか考えられないじゃん。ー無気力系後輩がグイグイ来るのは想定外でしたー

茜琉ぴーたん

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おまけ

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 とある日の、午後。

 美紀みのりさんはスマートフォンの画面を俺に見せてくれた。


朋也ともやくん、どれが良いと思う?」

 そこには淡い色合いの扁平なブラジャーが並んでいる。

 素材は綿だろう、レースやフリルなどの装飾性を省いた、どちらかと言えば冴えないデザインに見えた。

「美紀さんの好きなやつが良いと思いますけど」

「うーん、使い勝手もあるけどさ、一応朋也くんの好みも聞いておこうかなって」

「そうすか…ジブンは、この前ボタンのが外しやすくて便利そうだと思います」

「自分の便利さを優先してない?」

「当たり前っすよ…ジブンの脱がせやすさ重視っすもん」


 彼女が選んでいるのは、平時用ではなく授乳用のそれだ。

 美紀さんは現在妊娠中なのである。

 つまりは、彼女は授乳しやすいものを求めているが、一応そこに俺の嗜好も挟ませてくれたのだ。


 慎ましいバストの美紀さんにあっても、安定期を過ぎて胸が膨らんでサイズアップした。

 具体的に言うと2つくらい、Bカップ相当になっているらしい。

 指摘したら「べ、別に、世間的にはBとか全然大きくないし。嬉しくなんかないし」と真っ赤な顔で応えていた。

 過去最高に大きいんだから嬉しいんだろうな、鏡の前で横向きになってほくそ笑む姿を目撃しているし。

 褒めれば怒るのだが、俺は毎回それをいなしては大切に愛でている。


「1年くらいは使うから、丈夫そうなのが良いな」

「…普通のやつも買ったらどうすか」

「普通のって?」

「飾りのある、ランジェリーとしてのブラっすよ。せっかくカップ数上がったんだし」

 用をなさないようなランジェリーは、締め付けが少なくて意外や妊婦に快適そうではある。

 妊娠前からチェックはしていたので、ここぞという機会に提案してみた。

「いやいや、授乳期が終わったら萎むのよ。もうそれっきりじゃん」

「産むまでは使えるじゃないすか。2人目があるかもしれないし…ジブンからのプレゼントにさせて下さい。あ、キャミソールみたいなやつなら楽そうっすね」

「…そ、そんなの…いつ着けるの…」

「苦しくないなら日中でも良いっすけど…安定期入りましたし、それ着て抱かれるとかどうっすか」

「…朋也くんって、そんなこと考えるんだ」

「美紀さんが下着に執着するから、希望に則ったつもりなんすけど」


 自分の胸の大きさを卑下してばかりだから、せめて期間限定でも楽しんだら良いのに。

 俺は性器を誇示するような下着は選ばないし柄も気にしてないけれど、女性のそれへの思い入れというのは格別なのではないか。

 サイズ展開が無いからとクダを巻いていたじゃないか、どうせだから谷間のできたバストを俺に見せてくれまいか。

 飾り立てて、自慢げに見せてくれないか。


「……」

美紀さんは複雑そうな面持ちで、ショッピングアプリのボタンをポチポチする。

 そして画面を俺に向けて、

「朋也くんが、私に着せたいと思うやつ…選んで?」

とゴニョゴニョ囁いた。

 優しい色味と天然素材だったページが一転、レーシーで艶やかな商品に目が眩む。

「…全部着せたいっすね」

「…一万円までね」

「うす」


 なんて楽しいんだろう、美紀さんとなら関係性や状況が変わったってこうして話し合って順応していける。

 わざと派手なものを指して恥ずかしがらせたり、「ほぼ紐じゃん」と声を揃わせたり。

 俺たちは腹を労りながら、今夜も恋人気分で笑い合うのだった。



おわり
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