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3月

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「あー、ほんとにご迷惑をお掛けして…申し訳ない!」

「いいですよ、仕事にも間に合いそうですし…ただの捻挫で良かったじゃないですか」


 隣接する薬局で薬を貰い、二人は松井の車へと戻る。

 幸いにも松葉杖を借りることができたので、辿々しくも再び後部座席へ乗り込む奈々へ松井はやはり手を貸した。

「よいしょっと…ふー、ありがとね」

 見下ろした奈々は胸元の主張が強く、降車時にも感じたその圧は扇情的で凶悪でいけない。

 この役割をタクシーのドライバーにさせるわけにはいかない、松井は自身の行動は正解だったと確信していた。

「いいですよ、せっかく下に住んでるんですから…」

「帰りは気にしなくていいからね、タクシー呼ぶからさ」

「そうですか?まぁ何かあれば足に使ってくださいよ」

松井はミラー越しに奈々へそう告げ、会社へと向かう。

「今日は実務は無理ねェ…情けない」

「過去に、ムカデに噛まれて仕事ができなくなった奴もいましたよ、趣味の草野球で骨折して腕吊ってた奴もいたし…今回は事故ですから、堂々としていいと思いますけどね」

「いやァね、メンツの問題よ…カッコ悪いでしょ」

パキッと決めたパンツスーツ、その足元は包帯でぐるぐる巻きのブーツになっている。

「治るまでの辛抱ですね…お手洗いは、1階の商品管理室の横が人出が少なくて使いやすいですよ。困ったことがあればそこの宗近むねちかっていうのに助けてもらって下さい」

「あー、あそこね…ん?宗近ちゃんと仲良いの?」

「新人から世話してるんで。僕の言うことなら聞きますよ…あと、うちのアパートに住んでます。見たことないですか?」

そのアパートを松井に紹介したのは宗近の方なのだが、彼は得意のすり替えによって自分の方が居住歴が長いように語った。

 宗近が松井に世話になったというのは本当だが、マウントを取りたい彼をうまく煽ててへりくだって上位に立たせている、というのが実情である。

 何を話しても「僕すごい」な結論へ持っていく松井との会話に宗近は慣れており、実害が無い限りは「はいはい」と話を合わせてくれているのだ。

「まァ…松井くん、女の子にそんな上から…ダメじゃない…ちゃんとお礼とか言ってる?いつか愛想尽かされるわよ」

「んー…気を付けます」

 そういえばここ最近伝票のことを尋ねたりしても礼を言ってなかった気がする、松井は思い当たることが有り有りで頬を掻く。
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