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4月
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しおりを挟むそれから6日後、祝日の夜。
「なんで僕がこんなことを…」
控室がわりに用意してもらった物置きの小部屋で、ヒラヒラしたコスチュームに身を包み、ほんのり化粧を施した葉山青年が鏡に向かってボヤく。
「お前がやるのは順当なんだよ。巻き込まれてんのは僕の方だ…いや、演目は…ごめん、」
本日の主役のひとりでもあるはずの松井も同様の格好で、バラエティ雑貨店で購入したチープなツインテールのウィッグを被り開脚して椅子に掛けていた。
歓送迎会は予定通り開催、しかしチーフから副店長に昇進した守谷が「お前が休んだ間はてんてこ舞いだった、最後なんだから何かやれ」と言い出し、結局は余興をやらされるのだ。
「まぁ…ただのデュエットじゃつまらないですもんね…松井さん、パンツ見えてる」
「見るなよ。…去年のハロウィンも…あんなコスプレとかさせて悪かったよ。嫌だったろ、笠置さんにあんな格好させて」
「あの服は僕が選んだのでそれなりに楽しみましたけど。むしろ、いいチャンスでした」
昨年のハロウィンでは葉山のパートナーである現・西店コーナー長の笠置唯は、彼が自ら入手したロリータファッションをさせられていた。
「あ、そう、」
そもそも、素人がウケを狙った余興をせねばならないというこの制度からして変えていかねば…松井は管理職になった際のマニフェストのひとつに「余興は立候補制」を掲げることを心に誓う。
「それより松井さん、どうしたんです?死期が近いんですか?過去を振り返って謝るなんて」
「僕のイメージは相当傲慢で通ってるんだな、よく分かったよ」
松井はタイツの上から膝を掻き、ため息を吐いた。
そこにノック音がして、
「失礼、準備できた?あ、龍ちゃん、可愛いやんか♡写真撮ろな、松井さんも…べっぴんやで、ええな、」
と件の唯が笑いながら入室して来る。
「あら、いいじゃない♡2人とも可愛いわ」
「もっと化粧しましょうよ、目ヂカラ上げよ、」
「ええやん…スネ毛はそれでええの?剃ろうや」
「わ、本格的、すごいすごい」
口々に批評と手直しを施すのはハロウィンで仮装をした女性陣で、今回の衣装からメイクから全て勝手にプロデュースをされたのだ。
「松井さん、絶対に管理職になって、飲み会の余興という文化自体を撤廃してください…」
「葉山、任せとけ…数年かかるだろうけどね…」
その後2人は有名どころアニメのデュエットソングをフルテンションで歌い上げ万来の拍手と賛辞を得て、やり終えた際にはガッチリとハグをして互いを称えあった。
松井の高い鼻とプライドはポッキリ折れて、しかしいじられキャラに成り下がるのはゴメンだと不敵な笑みを浮かべる。
そして今年入社の新人たちに「来年はお前らだ」と爆弾を落とし、彼らを震え上がらせるのだった。
・
「ヒナコ、電話したの…お前だろ、」
会が終わって控え室を片付ける陽菜子へ、着替えて化粧を落とした松井が声をかけた。
「はい?」
「副店長と僕の乱闘の…実況。セクハラの証拠とか…内部通報したの…ヒナコじゃないの?」
「ん………間に…合わなくてすみませんでした」
カチャカチャとメイク道具をポーチへ入れて、彼女は悔しそうに唇を噛む。
配送カウンターで副店長が奈々へ余興を強要するところも、他の女性スタッフを貶める発言をしたところも、従わない社員の評価をまとめて下げるのを仄めかすところも彼女は現場で耳にしていたのだ。
「いや、よく…勇気出してくれたよ」
「いえ…もっと早く…私たちが動いてれば…松井さんがこんなことにならなくて済んだんです…すみません」
「いいよ、通報する方も身分を明かさなきゃいけないんだろ?証拠とか要るだろうし…ありがとう」
松井はくしゃくしゃと前髪を崩して諦めたように笑う。
「北店に行っても…松井会しましょうね」
「うん、もちろん…旦那さんと来いよ、嘉島副店長とさ」
2人は揃ってふふと笑い、片付けを終わらせた。
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