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2月

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 それぞれがテキパキと働いて、おおまかに片付け終わったのがちょうど予測通りの昼前であった。


「ありがとう、ほんと…助かるわ…よし、何食べたい?奢るし作るわよ」

「いや、なんでも…出前でも取ります?それかうちから作り置きで良ければ持って来ますよ」

「作り置き?すごーい…有能ね…じゃあご飯だけ早炊きしようかな。しばらく待ってね」

「じゃあ取って来ます」


 松井は一旦戻って冷蔵庫を物色、自作の冷凍焼売しゅうまいや生ハムなどを保存容器のまま小笠原家へ持ち込むことにする。

「……ふぅ」

米が炊き上がるまで20分ほどかかるだろうか。

 独身女性の部屋に上がり込むのはなかなかに気が引けるが、本人はあまり気にしてない様子だし構わないのだろう。

 それはつまり身の危険などを感じていないということ、異性として見られないのはもう慣れている。

 松井はエコバッグに食料を詰めて再度隣家の玄関を入った。





「お待たせしました…お口に合えばいいんですが」

「わぁ、すごいのね…パーティーでもしたの?」

「家庭料理はあんまり作らないです。ホームパーティー用の練習とか残りとか…」

「あー、『松井会』ね、いわゆるご馳走ね…やだ、ワイン開けたくなっちゃう♡」

奈々はハムとチーズが入った容器の蓋を開けて1切れ摘み、その濃厚な味わいに葡萄ぶどう酒を恋しがる。

「まだ早いですよ、作業はあるでしょう?」

「あとは会社に出す書類作ったり…衣類とかそれくらいかな、ねェ、歓迎会の時は車だから呑めなかったでしょう?諸々のお礼よ、呑んで行って、」

「ご飯にワインか…」

「焼酎もあるわよ、開けましょ、ね♡」


 そこから彼らが酔っ払うのにさほど時間はかからなかった。

 呑めば陽気になる二人は身の上話に花が咲く。

「あー、あれは流行ったわねェ、中学の頃だった?」

「そうそう、ブームが来たんですよね」

 同じ世代を通り過ぎた二人は思い出や青春時代の出来事を語っては共感し合った。

「ねェ、そのシャツ、カッコいいわね、どこの?」

「貰い物で…どっかのブランドのやつですよ。好みじゃないから着てなかったんですけどね」

「そうなの?センスいいなと思ったの。ジーンズの色とも合ってるし、サイズ感もいい。雰囲気というか…松井くんに似合ってるわ」

「そう、ですか…」

なるほどこれが年相応でお洒落なのか、松井はこのシャツのブランドショップをまた確認してみようと頭のTo doリストへ追加する。


「あはは、あ、ごはん炊けたわ…こんな味付けもあるのね、知らなかったわ……あー、楽し♡」

「はぁ…本当…うん、いい休日になりました。あ、ありがとうございます……なんか…こっちこそ助かったなぁ、」

 炊き上がった飯を底から混ぜて皿に軽く盛る、奈々からそれを受け取った松井は遠い目をしてひと口頬張る。

「うん?昨日も様子がおかしかったけど…なんか凹んでた?」

「ちょっと…失恋というか…この先の人生を考えちゃって…」

「そんなに…人生賭けてる子にフラれたの?」

 ホカホカご飯の湯気を浴びて酔いが醒めてきた奈々は酒ではなく湯呑みを用意して、静かになった松井の前に置きお茶を入れてやった。

「いや、……告白もしてないし…好きだっただけで……周りはどんどん纏まり出して、僕はずっと独りなのかなって、なんか昨日の夜から酷く気が滅入っちゃって…」

「そう…病み期?でもまだ33じゃない、男なら結婚のチャンスって長いわよ?女は出産とかでリミットがあるからもうちょっと焦っちゃうけど…」


 昨日結婚の報告に来た2人の件は奈々も当然知っている。

 タイムリーな話題だけにおそらく松井はその2人の事を指しているのだろうと予想する。

 退勤するまでに松井は珍しくミスをしたり商品の渡し間違いをしていた。

 今朝のどんよりした顔色もそのためだったのかと大まかに察した。
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