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しおりを挟む「踏み出せないんです、僕は……ミスするのが嫌で…チャレンジとかしないタイプなんですよ、恥かきたくない、馬鹿にされたくない、惨めな自分を見せたくなくて…」
「あー、そうなんだ…なんか分かる分かる。器用だから何でもソツ無くこなしちゃうのよね、失敗しないまま大きくなっちゃったんだ。大丈夫よ、松井くんがいい!って子が出てくるって。まずは出会いからでしょ、会社での人間関係に拘ることないわよ、マッチングアプリでも入れてみたらどう?」
とても上司がする提案ではない、沈んでいた松井は「ふは」と吹き出して笑い、酒から手を離し湯呑みの茶を飲む。
「カウンセラーみたいですね」
「いい表現ね、ホステスみたいって言われること多いわ…女の子は基本聞き上手よ♡」
小首を傾げる様子は接客をする嬢かママ、松井は良い気分で重い頭を肘で支えた。
「んー……たぶん上司だからですかね…あと姉に似てるから…」
「そうなの?……会社の女の子と話してる松井くん見てて思ったんだけど、貴方って人より上に立っちゃうタイプよね、偉そうとかそういう事じゃなくて…『さしすせそ』言えないタイプでしょ、」
「なんです?」
料理のそれなら聞いたことがある、松井は頭を持ち上げて耳慣れない話題に食い付く。
「さ、さすが~!、し、知らなかった~!、す、すご~い!、せ、せ……?なんだっけ?そ、そうなんですか~!ってヤツ。モテる女が使うやつよ」
「あー、聞いたことある…確かに…言わない…」
人の話題を奪って自分の話ばかりして来た松井、思い当たる節があり過ぎて、ザクザクと言葉の矢が胸に刺さった。
「男の人って皆そんな感じよね、自己顕示欲が強い人は特にね。松井くんは博識だから知らない事が少ないだろうけど、褒めたりおだてたりわざと知らないフリして教えてもらうってのもいいと思うわよ。私にはそう出来てるし、可愛い子だなって思うわよ、」
1歳しか違わないのに「子」と表したのは上司だからか、それとも母親ゆえの口癖なのか。
「…せ、は何なんでしょう?」
「せ?せ……なんだろ?次までに思い出しておくわ…調べちゃダメよ、自力で思い出すから!」
「ふふっ!」
上司というバイアスを抜きにしても奈々は年上だし自分より上位に立っている気がする。
軽々しく弄ったり揶揄ったり出来ないような存在感…言うなれば王様のような、行き着くところはやはり「姉」のような存在であった。
段々と肩書きやイメージが剥がれた彼女はただの同世代の女性で、会話が弾むし食の好みも合っている。まさに好みにマッチしているが、だからどうするという訳ではない。
ただ少し自信が付いた、楽しみが増えた。
奈々は松井の生活に新しい彩りを与えたのだった。
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