今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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4月

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 数日後、事務所にて。
「松井くーん、ちょっと、」
「は、」
長机で昼休憩をとっていた松井は、副店長・石柄に声を掛けられたので箸を置き管理職デスクへ歩み寄った。
「…今度の歓送迎会な、幹事だろ?余興とかさせなよ」
「はぁ、通例だと前年の新卒社員がする感じですけど…ここ数年は新卒がいなかったんで予定してなかったですね…打診してみます」
 それは月末に予定されている新卒社員の歓迎会と、北店へ戻った法人事業部所長代行・和田わだフロア長の歓送会を合同開催する件のことである。
 ちなみに産休から戻った法人所長・清里きよさとじゅんのおかえり会も兼ねたいところだったが、さすがに3ヶ月の赤子と夫を置いて呑みに出掛けられないと辞退されたのでその話は無くなった。
「野郎はだめ、女子がいいじゃない、歌って踊りゃ形になるだろ」
「女子…ですか…」
 それはアイドル的な集団芸か、前年のハロウィンでは女性陣6名がギャル仮装をしたので全く無謀という話ではない。しかもその時の幹事もこの松井だった。仮装をしようと提案したのも松井だったのだ。
 あの時は若手だけの小規模な会だったし、提案しておいてなんだがあそこまで各自高クオリティの仮装にしてくるとは彼も想像していなかった。せいぜい悪魔のカチューシャを着けるとかその程度で良かったのに、思いの外女性陣も楽しんだ、という結果である。
「…参加希望者を募るところからですね、名簿作ります」
「なに、全員強制参加だよ、行事なんだから!」
「はぁ、」
 本当に時代錯誤…ムラタにおいては社員仲はいいし個人間で遊んだりする者も多いのだが、全体での夜の集まりは年々規模が縮小してきている。単純に参加したくないという人もいるし、子供を預けてまで出たくないというスタッフも増えてきたのだ。
「女子もね、参加ね、」
「まぁ…事務所に貼り出しておきますね」
「よろしく、」
 松井においては知人程度の他人は"相手にできる"か"どうでもいい"のパターンで捉えることが多いのだが、この石柄に至っては珍しく"嫌い"のカテゴリへ分類されつつあった。
 それは奈々へハラスメント発言を仕掛けていると知ったからで、松井は抱いてしまった嫌悪感をどうにか悟られないように会を遂行せねばならないと意思を固くする。
「……ふん、」


 こんなに気が重い幹事は初めてだ、松井は珍しくため息をついて食事を終えると1階の商品管理室へと降りる。
「しつれい…チカ、パソコン…借りていいか?」
「はい、どうぞ…」
「歓送迎会の参加表、作らなきゃいけなくて…ダルいなぁ」
 この部屋を拠り所とする宗近むねちか知佳ちかは隣の椅子へ移り、パソコンを松井へ明け渡した。彼女は新卒採用時に松井が教育係として面倒を見た縁で、以来6年ほど師匠と舎弟のような付き合いが続いている。
「え、いつもの幹事ですよね、したくないんですか?」
「ん……新人にさ、余興やらせるだろ?毎年さ、チカも入社した次の年にしたろ?」
「あ、はいはい…あの…はい」
人前に立つのはそうでもないが、笑わせたり楽しませる自信が無い知佳にとってはあれは苦行だった…彼女は当時を思い出して身震いした。
「…何したっけ?」
「え、あの…当時流行ったドラマの寸劇みたいな…町工場のやつ…」
「あー、あれは盛り上がったね…そういうのはまだマシだよな、」
 知佳達はその年の冬ドラマのパロディーを同期4人で演じ、会社で結束して競合他社を退けようと良い風にまとめてそれなりに盛り上げていた。彼女たちが入社したのは件のフロア長の横領事件から数ヶ月後のことで、当時の事件を思い出したスタッフはしんみりとしてその身に染みたのだという。
「なかなかの辱めでしたけど…前年新卒というと葉山はやまくんですか?」
「いや………副店長が『女子にやらせろ』って…うーん……嫌、だよな?」
「もちろん嫌ですけど…松井さん、ハロウィン仮装を私たちにさせたの忘れたんですか?あれも結構しんどかったですよ」
「あそこまで徹底してするとは思ってなかったんだよ…ごめん…嫌だったよな、」
「え」
松井が謝罪をしている…彼が「黒」と言えば白い物も黒だとしてきた知佳は、その姿に驚愕しさまざまな要因を疑う。
「え、調子悪いんですか?何か変な物食べたとか……大病で余命僅かとかじゃないですよね、突然死んじゃったり…」
「何の話だよ…いや、セクハラ紛いのことして済まなかった、って」
「あれはまぁ…結果楽しかったし内輪ノリでしたから…え、大規模な会では…きついです…」
「だよな、」
松井は表計算ソフトで名簿を作りながらコクコク頷いた。
「……副店長…セクハラ…多いですよね…」
「‼︎……チカ、何かされたか?」
 手を止めて向き直る松井へ、知佳は気まずそうに口を開く。
「この前、ヒナちゃんと嘉島かしま副店長のお祝い会したでしょう?その時、アイカちゃんが『胸が小せえな』って言われて…向こうは酔ってたらしいんですけどね」
「……はぁ?」
「おめでたい席だし、アイカちゃんは笑っていなしてたけど…いい気はしないでしょう」
 それはレジ担当の新庄しんじょう陽菜子ひなことかつての上司・嘉島のムラタスタッフによる結婚お祝いパーティーでのこと。
 同じくレジ担当の吹竹ふきたけ愛花あいかが石柄の毒牙にかかったというのだ。
「……アイカか…」
 松井は親しい女性スタッフは下の名前で呼ぶのだが、こと愛花に至っては他とは別の意味合いもあって特に不機嫌そうにその名を呟いた。彼は童貞だが、唯一きちんと交際した相手がその愛花だったのだ。
 その期間は1週間。なんとなくの流れで成立したカップルだったが、もちろんその先の進展を望む程には気に入っていた。
 しかし会話やコミニュケーションに違和感を覚えた愛花は離脱、手を繋いだりもせずに終わりを迎える。
 彼はその時意識していなかったが、未知の事象について素直に「知らなかった」と言うこと、得た情報に対して「そうなんだ」と共感することをしていなかった。「美味しいケーキを食べた」に対し「僕が見つけた店はそこより美味しいよ」というような知識マウントをナチュラルにかまし、愛花は謂れのない劣等感を植え付けられて疲れてしまったらしい。
「仕事中も見られてると思うと気持ちは悪いですよね、うん」
「セクハラが特に酷いのか…」
「元々はパワハラで降格したっていう噂もありますし…崖っぷちだと思うんですけど、喉元過ぎれば忘れちゃうんでしょうか」
「その噂は知らなかったな…あ、休憩終わるからまた来るわ…デスクトップに保存させてもらってもいい?」
「へ、え、」
この人が「知らない」ことを認めた…知佳は間抜けな顔で頷き返事をして、部屋を去って行く松井の背中を見送った。
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