今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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4月

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 売り場へと戻る松井は、歓迎会をどのように進行しようかと構想を練る。副店長が言った「歌って踊りゃ」は例えばの比喩表現なのかそれとも本気でそれを求めているのか。
「(そりゃ可愛いだろうけど、どんな気持ちで観ていいか分かんないな…わざわざ練習させるのも面倒だろうし…いかがわしい…よな…)」
「どうしたの?松井さん…最近、思い悩むことが多いのね」
冷蔵庫コーナーと調理家電の間の通路で、同部門の刈田かりた美月みつきが声を掛ける。
「ねぇ、ハロウィンの仮装、ギャルに決めたのって刈田さんだったよね?あれ…嫌じゃなかった?」
「なによ、今さら…正確にはあたしの彼氏の提案だけどね。コスプレだけだし、どうせならガッツリって…化粧で隠しちゃえば平気ってチカちゃんも言うし…あんな感じになったわよ?男性も一応仮装は言い渡されてたじゃない、してきた人がいなかっただけで」
「うん、そっか…」
彼女が許してくれるなら不問だろう、松井は胸を撫で下ろした。
 ちなみにだが松井が女性を名呼びするのは親しい後輩や格下と思っている人に対してだけなのだが、美月に対しては親交の割に名字で呼んでいる。立場は同等だし単純に恐いからである。
「あのさ、今度…歓送迎会するじゃん、副店長が女性陣に余興を頼みたいって言っててさ…参加…する?」
「またコスプレ的なこと?さすがに全体規模だとみんな協力してくれないと思うわよ」
「だよね、うん…調整してみるよ」
「松井さんも大変ね…」
 客に呼ばれたので美月は離れ、松井も通常業務に戻って売り上げを稼いだ。



 夜になり、タイムカードを打刻しようと松井がカウンターを訪れると、売り上げ分析をしていた副店長・石柄が気付いて声を掛けてきた。
「松井くん、歓迎会の件、改めて頼むね、」
「はぁ、……あの、女性陣の反応見ると、余興は無理っぽいですよ」
これで諦めてくれればそれで良し、松井は石柄の顔色を窺う。
「えー?それぐらいさせなよ、せっかく綺麗どころが揃ってるんだしさー、副店長命令って言ってもいいよ?やらせなよ」
「は、ぁ…」
 この男は単にキャバレーの様に女性が踊って接待するのを観たいだけなのだろう、実にシンプルで俗悪で端ない。
「白物の刈田だろ、レジの新庄、吹竹、守谷もりやの嫁さんと…誰がいるかな…商管室の宗近とか、雑貨コーナーもいるだろ?……あと…小笠原おがさわら、」
「!」
「小笠原なんか、迫力あるだろ?特に胸が!管理職だしリーダーだな、決まりだ。声かけといてよ、おつかれ」
「お、お疲れ様です…」
奈々の名前が出た途端に体と拳が強張り血が沸いた。

 松井は表情を押し殺しながらバックヤードへ下がり、事務所のある3階へと上がる。
 金庫室には作業中の陽菜子と金庫番勉強中の愛花が詰めており、松井は仕切りをノックしてから中を覗いた。
「作業中にごめん、いいかな」
「はい、松井さん…どうされました?」
「ヒナコ、アイカ、あのー……歓送迎会な、余興とか…副店長がやれって言ってて…派手なやつ……嫌だよな?」
「地味でも嫌ですけど……それ、聞いて来いって頼まれたんですか?」
陽菜子は元気の無い松井の身の方を心配して眉をしかめる。
「まぁね…みんなの意見次第…というか断るつもりだけど…」
「あんまり言いたくないですけど、ハラスメント紛い…というか抵触してるので、副店長発信のそういうのはしたくないです」
「うん、分かった。上手いこと丸め込んでみるよ」
松井はホッとしたように笑い、しかしため息混じりに金庫を離れて事務所を出て行った。
「…アイカちゃん…松井さん、大丈夫かな…」
「うん…パワハラとも言い難い…?副店長を通報しちゃえる証拠とかあればいいんだけど……近付きたくないしね…」
「うーん…」
残された2人はかつてなく重い表情の松井の様子に不安を覚える。


 1階の商品管理室はもう無人になっていて、松井はパソコンを堂々と借りて名簿の作成を再開した。
 本店のスタッフは外部委託や派遣も加えれば100人を超える大所帯、メーカー販売員やアルバイトの主婦達は不参加だとしても半数の50人は集まるだろう。
「大体、なんなんだよ…女子が歌って踊る余興って…いやらしいな…」
プリンターの電源を入れて出力し、松井は独り言も躊躇わず通常の声量で口に出す。
「みんな、いっそ不参加なら…なんてね…」

 2枚に分けた全員分の出欠表を持って松井は再び3階へ上がり、事務所の扉へテープで貼り付けてから駐車場へ降りた。
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