今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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4月

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 自宅までの15分程の運転中、松井はやはり歓送迎会の事を考えていた。
 副店長は異様に胸に執着している様子、奈々に関しては馴れ馴れしくも際どいラインの発言をしてきている。踊れば奈々の胸は大きく揺れる事受け合い、想像するに容易いしそれを眺める副店長の鼻の下を伸ばした下衆な顔だって簡単に思い浮かぶ。
「チッ…」
 副店長が彼女の名前を口にした時に一気に頭に血が上り、あの弛んだ頬を殴り付けそうになっていた。喧嘩などしたことはない松井は、人に対してこんな思いを抱くことに心底驚いていた。


 自宅アパートの駐車場に着き、降りて見上げれば奈々の部屋はリビング側に明かりが灯っていた。まだ時刻は21時前、寝るには早い。
 松井は自室へ入り夕食の準備をするも、どうにもモヤモヤとして落ち着かず…先に部屋着に着替えることにした。
「なんだ、気持ち悪いな…風邪か?」
ムカムカとして腹立たしくて、形も見えぬ嫌悪感に食欲も失せてしまう。
「………フロア長…」
 テレビを付けても面白くない、ゲームも気分じゃない。

 松井は衝動的に立ち上がってキーケースを手に取り、玄関を出て隣の扉…奈々の部屋のチャイムを鳴らした。
『…はーい……あら松井くん?どしたの?』
「すみません、ちょっと…話したいことがありまして」
『うん?待ってね』
 トントンと内階段を降りてくる音がして、ガチャと鍵が開く。薄着の奈々は風呂上がりだったのか、肩にタオルをかけて化粧も落としていた。
「あ、すみません、あの…」
「ごめんね、見苦しくて…なに?上がって話す?」
「すみません…」
尋ねながらも奈々が奥に下がったので、松井は吸い込まれるように扉の向こうへと入らせてもらう。
 おそらくパジャマなのだろう、ふくらはぎまでの薄手のパーカーワンピースはすらりとシルエットが美しい。しかし前を上る彼女の尻に浮いたパンティーラインに気付いた松井は慌てて目を逸らした。これをデレデレと享受してしまっては人のことを言えなくなる。

「どうぞ、好きなとこ座って、」
「すみません、話したらすぐ帰るんで…あの、」
ソファーに掛けた松井は石柄いしづかに頼まれた件を簡単に説明し、他の女性陣の反応も一緒に伝える。
 断ってもらう前提の説明はいささか石柄を悪し様に表現している部分もあったが、松井が彼を好いていないことは既知なので良かろうと思った。
「はァ、歌って踊る、ねェ…アイドルじゃあるまいし」
「はい、だから一応声かけだけはしましたから、明日断りますから」
「私から言うわよ、そんなこと、みんなにさせたくないもの…そもそも参加できない人もいるし…」
 それは先日聞いたばかりの情報、守谷チーフフロア長の妻であるレジの未来は現在待望の第2子懐妊中で、一番大事を取らねばならない時期なのである。安定期に入るまでは公表・口外しないのがセオリー、奈々は明かしてもらいはしたが当然内緒を貫いているのだ。
「ふ、不参加でもいいと思うんです、あれに見られながら食事しても楽しくないし…」
「うーん、結託して休むのも手よね。仕事外の事だから『予定がある』って……まァ私は出なきゃいけないけど」
「は?ダメですって!」
ソファーの前のローテーブルに茶を置いた奈々に、松井は珍しく上から見下ろして声を荒げてしまった。
「え、いや、管理職だからさァ、付き合いとか」
「ダメです、フロア長にそんな接待みたいなことさせたくないです、何かあったら…」
「落ち着いて、お酌くらいなら平気でするし、隣に座るとも限らないじゃない、」
あまりの剣幕に気圧された奈々は盆を抱いてカーペットの上に座り、どうどうと松井をなだめにかかる。
「隣に…来させますよ…副店長命令とか出すタイプだから…」
「守ってくれてるのね、ありがとう……でもほら、歌って踊っては物の例えかもしれないわ、簡単な余興で気が済むならそれで」
「ダメです、フロア長、ダメです…」
 なぜ自分はこんなに必死になっているのか。女性陣を守りたい気持ちと奈々を守りたい気持ちは同等なのか、電話でもメールでも良かったのになぜ夜分に自宅に突撃してしまったのか。松井は今さら後付けの理由を探していた。
「あいつの思い通りにさせたくないっていうのもあるんです、でもそれと別で、フロア長にそういう事させたくなくて…あいつに見せたくないんです、その…」
 言葉を紡ぎながら正当な言い訳を考え、奈々を直視できず目は床を泳ぎ…
「松井くん、」
詰まった隙をついて、アイラインを入れていない素の二重の目が真っ直ぐ松井を捉える。
「その心配は、部下としてしてくれてるの?電話でもいいのにわざわざ訪問して…いや、部屋に上がる事自体は嫌でもないんだけど、こんな時間に仮にも女の部屋にね?自意識過剰だったらごめんなさいね、」
「え、あ…すみません、もち、ろん…部下として…心配で…」
「そう、なら私も上司として応えるわ…大丈夫よ、宴会芸のひとつふたつ持ってるから!自分を下げるわけじゃないけど、余興ひとつで丸く収まるなら馬鹿の接待だってするわよ」
奈々は最初こそキリッと、しかし次第に眉尻を下げて困ったように笑う。
「いや、その…すみませんでした…でもやっぱりして欲しくないです……か、帰ります…」
「うん、分かった。おやすみ…明日、会社でね」
「はい、ごちそうさまでした、」
松井はせっかく出してもらった茶を一気に呷り、勢いよく階段を降りて行った。
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