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4月
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しおりを挟む「物騒なこと言わないでよ……でもそれに近いか…ん…『お前が余興しないと松井も女子達も評価下げるぞ』って…そんな感じのことを言われたのよ…『協調性の欠如』だって…」
「クズだな…仕事に関係ない…そうか…フロア長は僕らを守って……いや、だからってフロア長が人柱になることないでしょう!」
「あなたが………いずれ…管理職になりたいって…思った時に…一定レベル以下の悪評が付いてると足止め食らっちゃうの、不祥事とか大きなクレーム出すのと同じなの、叶わなくなっちゃう…」
「フロア長に余興させてまで管理職になりたくないです、一生平社」
「まだ言うの⁉︎この馬鹿‼︎」
奈々は鬼の形相で距離を詰めて、石柄に殴られた頬を抓り、引っ張って上下に揺らす。
「ちょ、」
「守ってやってんだから‼︎素直に‼︎聞きなさいよッ‼︎」
「フロア長、痛い、」
「私だって、あんな下衆の前で踊ったりなんかしたくないわよ!でもそれで部下を守れるんなら平気よ!するわよ!」
こんなに涙が出ても化粧って落ちないんだ。
松井は至近距離で泣きじゃくる奈々を見つめてそんなことを淡々と思い、指が離れた頬を摩った。
「なんでそんなことまでしてフロア長を踊らせたいんですか…そもそもそこがおかしいじゃないですか!」
「知らないわよ!おっぱい見たいんでしょ⁉︎…………自分に従わないってだけで排除する、それで満足感を得る、そういう人っているのよ…」
今回の石柄の件はまさにそういうことだった。
奴はペコペコと謙る部下ばかりを重用しては、偽りの人望で副店長にまでのし上がったのだ。
「でも暴力振るったから降格でしょう?小規模店に左遷かな…評価する権限は剥奪でしょ、僕らの勝ちですよ」
「勝ち負けじゃないわよ…松井くん…あなただって飛ばされる可能性あるのよ…?問題行動なんだから…」
「まぁ…甘んじて受けますよ。うん…」
形は「一方的に売られた喧嘩を買った」ことになっているが、ここ最近の反抗的な態度はそれなりに周りに広まっている。
松井がそうだから石柄が叱った、そのような因果関係にとられても不思議はない。
「松井くん…」
「……みんなを副店長から守れて良かった、それだけです」
「その点に関しては…まァありがとう……ふー……歓送迎会自体も無くなるかもしれないわね、こんな状況だから……いろいろ覚悟しておきましょう」
処遇に関しては一切の言い訳はしない。
あれは正当な怒りだったと思うし敵を失脚させることもできそう、奈々や女性陣を守れたことに松井は誇りさえ感じていた。
「僕のサヨナラ会になるかも、」
「…そうかもね……うん……転勤しても家は一緒だから…まァ県外じゃなければいいわね…じゃ、失礼するわ、おやすみなさい」
奈々は松井の痛む頬に少しだけ手の平を当て、すぐに離して踵を返す。
「はい、あの…ありがとうございました」
「いいわよ…きちんと相談なりすれば良かったわね、ふふ…ばいばい」
少し言葉を崩した奈々は困り眉毛で笑い、出て少ししてから内階段を踏み鳴らす音が1階に響いた。
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