今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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5月

34

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 松井の車がアパート前に着いた頃、まだジムに居るだろう奈々から
『まだご飯食べてないわよね?明日休みなんだから一緒に食べたい』
とメッセージが届いた。
『まだです。何か作っておきますよ』
そう返信した松井は部屋に入って台所へ、今日のために作り置きしておいた餃子を解凍する。
「…触る…触りたい…なぁ…」
恋人として男として沸き始める性的欲求と独占欲、以前調べた胸の触り方など無視して、ただ鷲掴みにして彼女の困惑した顔が見たい。
「はぁ…緊張する…」
 世の中の男性は皆、童貞を棄てる時にこんなにばくばくと心臓を高鳴らせていたのだろうか。ここまで怖気付く自分はどこかおかしいのだろうか。
 付け合わせのスープに中華出汁を振りながら松井は思案した。
「よーし…」
この部屋で寝るとも決まっていないし最後までシてしまう気概も無いが、松井は寝室を軽く掃除する。
 ホテルじゃあるまいし、自分に理性と外聞を飛ばしてまで彼女を抱く度胸があるはず無い。卑屈に自虐的に、しかし百万が一を考えてベッドは特に念入りに綺麗に整えた。



「ただいまァ……あ、餃子⁉︎いやん、ジム帰り夜食にしてはギルティね、」
「やめときます?」
「いやァね、食べるわよゥ♡旭くんのお手製でしょ?食べる♡」
午後も10時過ぎ、この時間にしてはパワフルな香りが松井の部屋には充満し、部屋に戻らずすぐに立ち寄った奈々は無意識に舌舐めずりをした。
「呑みます?」
「ん、ありがと」
「はいはい…じゃあどうぞ」
「いただきます…………んっ♡美味しい…はァ…旭くん、天才ね、」
「どうも……うん、ちゃんとできてる」
疲れていれば自分ひとりのご飯でここまではしない。
 松井は喜んでくれる奈々の顔を確認してから餃子に手を付ける。
 その様子を見た奈々は、彼女にしては珍しくおずおずと
「旭くん…私、今日何かしたかしら、」
と尋ね、哀しげな表情でグラスを傾けた。
「え、んー……いや、」
「ジムは別々の方がいい?気が散っちゃうわよね」
「そういうことじゃなくて」
「何?」
カロリーオフの発泡酒をさらにひと呑み奈々は箸を置いて、口の端を拭き松井へ向き直る。
 最初こそキッと松井を睨んで、しかし眉尻は辛そうに八の字に下がっていった。
「あの…気を悪くしないで下さい、ずっと、ナナさんを見てる人達がいたんですよ…ガラス越しに見てて気付いたんですけど…」
「え、そうなの?やァね…」
「だから嫌だったんだ、あんなとこに連れて行くの…」
「あんまりだったらスタッフさんに言うわ、ジムだけじゃなくてエアロビとかスイムに行ってもいいし」
「揺れるじゃん、水着じゃん、だめじゃん!」
今より動いたり露出が増えたりは自分も耐えられそうにない、松井は半ば娘を持つ父親の気分で訴える。
「でも胸の大きい女だって運動したいんだもん…」
「分かるよ、分かるけど…女性専用のとことかあるじゃんか…」
「近くに無いし…旭くんがいるからあそこにしたんだけど…」
「居た堪れないというか…」
「それで帰っちゃったの?それ余計に危ないと思わない?」
視線に気付かない彼女をひとり置いて帰る、正直に伝えて「一緒に帰ろう」と言ってくれればそうしたのに。
 奈々の眉毛は次第に通常モードに戻り、険しい角度へと変わっていった。
「あ、確かに……ごめんなさい、でもなんか……腹立って…」
「私に?無防備だから?」
「違う、それもあるけど…」
「ハッキリ言いなさいな、松井くん」
 タメ口を要請しておいてこういう時に上司風を吹かせるのはずるいな、しかしきちんと化粧直しした彼女の目力には勝てる気がしない。
「嫌だったんですよ、ナナさんが他の人に見られるのが、」
「人が居れば視界に入るのは当然じゃない、伝え方がなってないわね」
「違うよ、分かるでしょ?薄着の、女の人を男がジロジロ見るって…変なこと考えられてるかもしれないじゃん、」
「女性は他にもいたわよ?私に限った話じゃない」
「なん……なんなの⁉︎なにを…」
 腹が立つから何なのか、注意するわけでもなく置き去りにするのは正しかったのか。何故そんなことをしたのか、奈々は理路整然とした説明を求めるも松井は応えるどころか察しない。
 奈々はふゥとため息をついて
「旭くん、私、あなたの何なのかしら?」
と強制答え合わせに移った。
「何って」
松井が箸を置いたらたちまち、彼の視界は麗しい奈々で満ちていた。
「なァに?なぜあなたが腹を立てるの?当事者である私を差し置いて、」
「それは」
「恋愛の知識もうといの?転勤前の乱闘騒ぎの時だってそうだったでしょう?なぜあなたは怒ってるの?」
「だから…」
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