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5月
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しおりを挟むこの日から松井と奈々は時にバラバラに、時に一緒にジムへ通い体を鍛えていった。
それが日々の仕事にも還元されて、お得意様から「松井くん、肌が艶々してるわね」などと褒められると殊更にやる気も向上心も上がる。
そんな通い始めて2週間ほど経ったある日のこと、休みを翌日に控えた二人は仕事終わりにジムで落ち合うことにしていた。
松井はいつも通りゆるっとしたパーカーの袖をまくって揃いの7分丈パンツを穿き、フィットネスコーナーのロビーのベンチで奈々を待つ。
「(今日はどんな色のウェアだろ…)」
彼女は多少彼の目線が喉から下に移ろうとも咎めたりはしない。なので最近では堂々と「可愛いウェアですね」などと格好を褒めたりしている。
あわよくば「触ってみる?」と言い出してくれたら儲け物…まだまだ勇気の無い松井は自分からは踏み出すことができなかった。
そうこうしていると出入り口から奈々が入室してきて、松井が声を掛けるより先に彼女のパーソナルトレーナーがその視線を遮る。
「小笠原さん、今日は新しいメニューを試してみませんか?」
「あら、また肩ですか?」
「今日は腰と背中、立ち仕事って仰ってたから。どうぞ、こちらへ」
奈々は松井へ「ごめんね」とでも言いたげに目配せをして、トレーナーに付いてマシンへと移動した。
脚を上げたりケーブルを引いたり、背中をぴんと張れば必然的に胸が前へ出る。
松井は奈々の後方のマシンで彼女を見守っていたが、周囲の男性陣の目線がそこに集中しているようでどうにも堪らない。いつもより早めにルーティンを消化してエアロバイクへと移った。
外は暗いので室内の様子が全面ガラスに反射して、奈々が奮闘している様子も彼女を凝視する男性利用者の姿もばっちり観察できる。
「(あの人…あっちのベンチプレスのオジサンも……嫌だなぁ…)」
・
「はァ…結構しんどい……旭くんは今日はハイペースなのね、急いでる?」
背中・胸・肩・をひと通りこなした奈々が汗を拭きながら松井の隣へとつく。
ガラスには奈々を目で追う男性客と、仲良さげに話す松井をチラチラ窺う視線も同時に捉えていた。
「いえ……ナナさん、結構絞れてきました?」
「ん、そうね…体重の減りはなだらかだけど、代謝が良くなって…家の体組成計でも代謝レベルがいい感じに上がってきてるの。毎日測ると楽しいわね」
「そう、良かったです」
「旭くんは?」
奈々がエアロバイクに跨ると視線もそちらへ、惜しげもなく晒したうなじと首、むちむちとした尻も見られているのだろう、松井は彼女の問いかけに応えられずガラスに映る男性を睨み付ける。
「なァに、どうしたの?」
「いえ…」
見られていると言えば気色悪いだろうし機嫌を損ねるかもしれない。
松井はハンドルに額を付けてはぁとため息をついた。
「手に余る…あー…もう今日は終わりにします…構わず続けててください」
バイクを降りた松井は奈々を見ていた男性をキッと睨み、
「ナンパ、されないでくださいね」
と言い残してシャワー室へ向かう。
自分が居なくなれば誰かが奈々へ声を掛けたりするかもしれない、しかし一緒に居たところで自分は彼女を守れていない。熱いシャワーに打たれながら、松井は悶々と考えた。
そして以前より格段に引き締まった体にタオルを巻いて着替えへと移る。
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