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6月

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「ねェ見て、旭くん」

「な、に…」

 搾り取られた松井が意識を遣ろうとしていると、奈々が膝立ちになり腿に伝う粘液を見せつけてくる。

「旭くんの精子♡」

「えっっっろ、」

「子作りってこんな感じかしら」

「……どうなんでしょう…」

「そういえばね、守谷もりや副店長のところ、2人目ご懐妊なのよ、もうすぐ安定期よ」

「…そうですか、良かったですね…おめでたい…」

松井はうとうとと白目になりながらかつての上司の喜ぶ顔を想像した。

「旭くんも欲しい?」

「ん、んー……僕の一存ではなんとも……んー…でも……本能というか…子孫を残したい…家族を増やしたいっていうのは…ありますよ、それを誰とするかっていう…パートナーがナナさんなら…嬉しいかな…うん……でも一存では…なんとも……うん…」

 頭の下に引き寄せた枕はふんわりと奈々の香りがして、松井は性に溺れた一日の疲れがどっと押し寄せたのもあり、目を閉じたが最後眠りに落ちてしまった。


「…旭くん、寝ちゃった?」

返ってくるのは浅い眠りのいびきだけ、奈々はそうっとタオルケットを掛けてやりシャワーを浴びに風呂場へと向かう。


「……なんか…久しぶりに…家庭像が浮かんできたなァ…」

 子供がいて夫がいて、一緒に食卓を囲み、団欒だんらんし…最初の結婚では長くは楽しむことができなかった睦じい生活。

 それを娘にも当たり前に与えてあげたかったし自分もそうしたかった、でもできなかった。

「(現実的に…どうなのォ?8月で35歳…高齢出産よ…また授乳とか夜泣きとか…保育園と家と会社の往復かァ…体がたないわよ…専業って性に合わないし……でも…んー…)」

 子供を作ることが目的ではない、しかし作るか否かは早いうちに決断せねばナナの身体にリミットが来てしまう。

「………桃には…体験させてあげられなかったのに…」

 地元から離れた土地で男を作り、その上歳の離れた兄弟まで作ったら母親のことを娘はどう思うだろうか。

 奈々は苦々しい顔でボディーソープを洗い流した。

「実家に帰る、手もあるけど…松井家がどう思われるか…んー…」


 なにぶんひとりでは結論の出ないことを奈々はぐるぐると考え続け、寝室へ戻りぐうぐうと寝息を立てる松井の隣へ横になり目をつぶる。



つづく
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