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7月(最終章)
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しおりを挟む7月、中旬。
「もしもし、桃、こんばんは」
『こんばんはー』
「期末試験、お疲れさま」
『どーも…本当に疲れたよ』
「あ、あの…ちょっと聞いて欲しいというか…聞きたいんだけどね、」
『うん?』
「もしよ、もし……お母さんが再婚とか…したらね、桃はどう思うかなって…」
忙しい土日を戦い抜いた終業後の夜、奈々は実家の娘へ電話をかけていた。
『え、いいじゃん。しちゃいなよ』
「い、嫌じゃない?」
『なんで?そんな変な人なの?』
「違う、とってもいい人…だけど…たぶんこっちで暮らすことになるだろうし…は、母親が未成年の娘を置いて他所で所帯持つって…おかしいじゃない、桃のこと蔑ろにしてるみたいで…」
『……まぁそうかもしれないけど…いいじゃん、第2の人生。私ももうすぐ成人するし』
風呂上がりで何か口に入れているのか、桃はモゴモゴと籠った声を母へ届ける。
「成人って、まだまだじゃない」
『制度が変わるじゃない、18歳で成人だよ、前も言ったじゃない、お父さんとの面会も終わらせるしさ。一人前になるまで育てたんだから好きに生きなよ。まだ学費は出してもらうけどォ』
「そりゃあ出すけどォ……何か食べてる?」
『うん、風呂上りのアイス』
昔からの小笠原家の湯上りの習慣、奈々はなるほどと静かに頷いた。
「あそ…………ならね、その…例えばだけど……と、歳の離れた兄弟、が、できたりしたら…素直にどう、思う…?」
『え、可愛がるよ』
「本当⁉︎」
『会わせてくれるならお世話もするし…当たり前じゃん』
あっけらかんと答える娘に、
「も、桃にしてあげられなかったこと、両親揃って出かけたりご飯食べたり、そういうの下の子はさせてもらえるの、ズルいとか…本当に思わない⁉︎」
と奈々は声を張り上げる。
母としての負い目、勝手に浮気をして出て行った夫だがその気持ちを繋ぎ止めておけなかったことには奈々も桃へ責任を感じているのだ。
『あー、そういうことか……それは思うかも』
「そう、よね…」
『んでも思うからって辞めるべきじゃないと思うよ?普通の兄弟だって下が生まれたら上の子は寂しい思いするもんだろうし。私はおじいちゃんとおばあちゃんがいてくれたから別に…お父さんが居なくて寂しいとは思ったことないよ?生後半年から当たり前に居なかったんだもん』
「う、うん…ごめんね、ダメな両親で…」
『いいよ、もし兄弟ができても、お母さんの愛情が取られたなんて思わない。私は15年もそれを独占してきた訳だし…お母さんが私に関心が無くなっちゃうと寂しいけど』
「そんなことしないわよ、電話もメールもするし」
大人びているが思春期なりに子供らしい面も見せてくれる、奈々はほっとして目元をくしくしと摩った。
『うん、でしょ、…それにさ、そのうち私に子供ができたら仲良くしてあげられそうだし』
「ちょっ、桃⁉︎彼氏居るの⁉︎」
『ひみつ』
「ダメよ、簡単にエッチなんかしちゃったら」
『分かってるよ、失敗はしませんー』
聞き飽きた説教を食い気味に桃が返事をすれば、奈々は
「桃‼︎」
と聞き捨てならんと再度大声を上げる。
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