好き、やねん

茜琉ぴーたん

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ベッドの下の、この引き出しに(全3話)

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 病は気から、というのはあながち間違いではなくて、それと気付かなければ案外平気だったりするものなのだ。

 熱があっても検温しなければ元気だし、くしゃみが出ても花粉症だと頑なに認めない、とか。

 逆に、微熱でも体温計の数字を見てしまうと急に体調が悪化したりするのはまさにそういうことだと思うのだ。

 生理だってそう。

 万全の準備をして知らぬ間に始まっていれば気にならないのに、この鮮やかなワイン色を目にしてしまうと途端に腰と腹が不具合を訴え出すのだ。


「痛なってきた…はぁ…」

トイレの水を流してぽつりと呟き、腹を摩る。
 
 静かに台所に戻って常備薬を飲み、速く効くよう手から腹へ念と熱を送った。

 何処が、と問われれば何処とも答え難い。

 怠くって重くって、個人差も大きいから女同士でも理解されない事だってあるのだから辛い。


 昔婆ちゃんが言ってただけだから生物学的に合ってるのかは不明だけれど、この痛みっていうのは無いのが正常らしいのだ。

 痛みの原因は骨盤、つまり歪みとかズレを矯正すると悩まされなくなるらしい。

 歩き方、立ち方、座り方、身に覚えが有り過ぎてついつい渇いた笑いが溢れてしまう。


「……どした?」

彼が寝室から台所へ出てきて、座卓に伏せった不気味な影に声を投げた。

「…ごめん、起こした?」

「音がしてるしお前おらんなってるし…何かあったか?」

 どうやらシーツのシミには気付いていないようだ。

 わざわざ説明せずとも夜が明けてから黙って剥がせば案外バレないかもしれない。

「あのー、腹痛くて…」

「大丈夫か?」

「うん、薬飲んだしな…じきに良うなるよ」

「ほうか、なら寝ようや」

「う、ん」

 あぁ、どうか朝までもってくれ。

 胎に送る念を多めにしてから彼の後を追う。


 ベッドでは案の定というか、彼が先に寝転び、腕枕の準備をして待ってくれている。

 嬉しい、しかし今日では無い方が良かった。

 すすすとベッドへ上がり、逞しい腕に頭を乗せて仰向けになると、彼は明らかにキョトンとした声で

「へェ?」

と呟いた。
 
 俺の方を向いて寝ろ、そう言っているのだろう?

 分かっている、分かっているがこれ以上の被害を出したくないのだ。

「腹摩るから…仰向けで居りたいねん…」

「……あー、ほな手伝ったろ」

 そう言った彼の大きな手が腹に乗ると、じわじわと温もりと重さが伝わってきてどうにも心地が良い。

 体温が低いこの男の手がこんなに温かく感じるなんて、よほど自分の体が冷えているのだろう。

「あ……ええな…あったかいわ…」

「ん…」

「眠なってくるなぁ……」

「寝や、」

「うん……うん…」
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