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しおりを挟むそれからというもの、遥は何かあれば長岡を頼って相談したり指示を仰いだりするようになった。
元々が仲が良いので二人の間を疑うものはいなかったが、さすがに添い寝したり口淫までしている仲だとは皆想像もしなかったことだろう。
酔わなければさすがに何も無いし長岡は遥にセックスを迫るようなことも無いし、とはいえ「人肌恋しい」とせがまれればキスハグは躊躇いなくするような妙な関係になっている。
今夜も遥は仕事終わりに映画のDVDを持って長岡宅を訪ねていた。
「あ、ひと口ちょうだい、」
彼女が軽はずみに彼が開けていた缶チューハイを掴もうとするので、長岡は
「呑むな」
と鼻頭にシワを拵えて牽制する。
「いいじゃん…けち」
「お前が来るって分かってたら開けなかったんだけどなぁ……黙って観ろよ、お前が観てぇんだろ?」
「うん、感動するんだってー」
彼女が持って来たのは数十年前の白黒映画で、レンタルショップでお勧めされて選んだらしい。
「お前みたいな馬鹿にこれの良さが分かるかねぇ」
「直樹、観たことあるの?」
「あるよ…名作だろ。美人だよな…」
「うん…こういう顔の人好き?」
「顔っていうか…可愛いじゃん…全体の世界観が好きなんだよ…」
映画に夢中になったのは遥より長岡の方で、彼女が作ったツナと大根の和え物を無心で摘んではポリポリと噛みしだく。
すぐに映画に飽きてしまい酒も止められ手持ち無沙汰になった遥はシャワーを浴びて、部屋に戻るとベッドに横たわる。
そして隣で胡座をかく長岡の膝へ頭を乗せた。
「ん?なに?」
「気にしないで、映画観てて」
「そこに顔がくると気になるだろ」
「じゃあ舐めていい?」
「なにがじゃあだ、嫌だよ馬鹿」
「邪魔はしないよ」
遥はうとうとしながらも縦になった字幕を目で追い、終盤に差し掛かると切なげに眉尻を下げて固唾を飲む。
そして黙ってラストまで見届けると、長岡のズボンへ涙の滴を落とした。
「なに、泣いてんの?」
「うん…結ばれないんだね、……切ないね」
「お前も失恋は慣れてるだろ、」
「失恋って言うか……私のって失恋?」
「恋してんだろ?ならそうだよ」
「分かんないなぁ…」
エンドロールの間に遥は起き上がってベッドにぺたんと腰掛け、目の下をくしくしと指で擦る。
映画に感情移入して泣けるその感性は可愛くいじらしい…長岡は遥の頭を軽く撫でてレコーダーからディスクを取り出してテレビを消した。
「もう…寝るか?」
「うん…お風呂は?」
「俺は帰ってすぐシャワーしてる…電気消すよ」
「うん、」
10月にもなると夜は肌寒く冬用の布団が心地良い時期で、長岡は毛布も押し入れから引っ張り出して二人寝に備えている。
しかし遥は壁際の長岡へぴったり寄り添うので、使うのは羽毛布団1枚のみだった。
「…アンタって変な男ね」
「なにがよ」
「こんなエロい女が隣に寝てんのに、襲わないなんて」
「あ?添い寝してやるだけでも有り難く思えよ?」
「ありがと、でも何されてもいいくらい信頼してるし覚悟もしてる」
はてそんなに全幅の信頼を得るほどに良い行いもしていないはず、触って欲しいのか、許してくれるのか、というか抱かれたいのか。
しかし彼は乗るわけにはいかない。親しくも同期の同僚、映画に涙する姿は可愛く思えたがそれはそれだけ、抱くことで責任を負いたくないのは相変わらずなのである。
「もっと自分の体大切にしろよ…」
「救われてるの。Win-Winの関係でしょ?私は独りにならなくて済むし、アンタはご飯食べられるし。ねぇ、ぎゅってして、それかちゃんと触って?」
「どこをだよ…」
「胸とか…小さくないよ、興奮しないかな?」
「分かんねぇな……通報とかしねぇ?」
「しないよ……ね、あったかいよ」
遥は布団の中でパジャマ代わりのトレーナーをまくり上げ、ノーブラの胸を男へ押し付ける。
ぐにぐにと当たる感触に手を近付ければ数センチ前から熱気とも言える温かみが感じられた。
「…あったかいな」
「あ、ん♡直樹の手も…あったかいよ、大きいんだね」
「呑んでるから…うん……柔らけぇな……気持ちいい」
「ん、ふふ♡」
「絶対最後まではしねぇから……ふは…」
キスハグの関係はついにボディータッチまで進み、しかしこれ以上のアクションを起こすつもりは長岡には無い。
少なくとも自分から遥を求めるようなことはしない。その理由は言わずもがな、彼女に恋してるわけでも彼女を愛してるわけでもないからである。
「ん、おっぱい好き?」
「そこそこ。フェチとかは無い…いや、あるけど……マジ気持ちいいな」
「ん、いいよ、これくらいお安い御用」
「だから、安売りすんなって……んー…まぁいいや…」
「ねぇ、舐めて?ちゅっちゅしてもらうの…好きなの」
「はぁ……酔ってるから、だからな」
長岡は酔いに任せて布団へ潜り遥の乳房へ唇を付け、彼女は男の頭を抱いて至福そうに髪を撫でた。
「ん♡はぁ…直樹……可愛い、」
「あぃああぉ…ッふ……ハルカのおっぱいの方が可愛いよ、」
「あ、んッ♡噛ん……ぁあ♡」
「やべぇ、気持ちいい」
「うん、嬉しいな♡ねぇ直樹、エッチしよ?」
「しねぇって…噛みちぎるぞ」
「いやぁだ、もう…」
こんなことがほぼ毎週、キス・ハグ・添い寝・ボディータッチ…酒さえ入らなければ制止できると学習した長岡は、遥をコントロールしながら欲求を満たしてやる。
そして遥が見ていないところで自慰行為をして発散する、その際のネタは彼女ではないのだが、それなりに満たされる習慣となりつつあった。
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