46 / 56
11
46
しおりを挟む「!……うん、」
「見てるだけで楽しくて、会えたら嬉しくて…いいこと共有したり悲しみ分け合ったり」
「うんうん、」
「いてもたってもいられなくなって…叫びたい衝動に駆られたり…」
まるで中高生の様な恋愛観、その高き理想とおママゴトの様な綺麗事に思わず遥が
「…直樹、恋愛にすごい夢見てたんだね」
と口を添えると
「…‼︎」
長岡は愕然として押し黙り、ぶわぁと頬から耳まで真っ赤になる。
恋に溺れる男女を見ては無様だと笑い、言動も思考さえも相手に染まってしまうそれに必要性など感じず馬鹿馬鹿しいと思っていた。しかし長岡はその本質どころか上澄みさえも理解できていなかった。
「一緒にいて気が休まる、そんなのも恋愛だよ。直樹、私は直樹といて安心したり落ち着いたりしたよ」
「車崎さんもんなこと言ってたけど……あ、あ…」
「私がシェアハウスから逃げてきた時も抱き締めてくれたでしょ、『胸が痛んだ』って言ってた、私の悲しみを共有してくれたじゃない」
「あ、あれが…そう?」
理解できないから知りたいと思っていたが、そもそも彼が想像していた「恋愛感情」はドラマや映画やフィクションのそれの受け売り、実情が分からないのだから実感など湧きようがなかったのだ。
「そうだよ、そんな雷に打たれるみたいな恋…もあるのかもしれないけどね、どっちかが告白して、みたいなキッカケがあればそこがドキドキポイントかもしれないけど…気付いたら好きで、仲良くなってて、隣に居るのが当たり前になっちゃったら…そんなにドキドキはしないかもしれないね」
「だろ、俺は…」
「でも、それが愛なのかもしれないね」
「……あい、」
とっくにそれは体感できていた。その気持ちは…帰宅すると温かいご飯と遥の笑顔が待っている、寄り添うだけで朝までぐっすり眠れる、並んで座って肩が触れ合うだけで独りじゃないと心が安らぐ。
フェラチオをさせた時は「可愛い」と思った。店の嬢に抱くものよりももっと桃色で…支配感とか征服感もあるがもっと違う、「俺のために尽くしてくれて嬉しい」とも感じた。
そこにいてくれる、逃げないという信頼感が何より自信となって誇りとなる…見返りを求めない「愛情」、それがそうなのか。
「お、お前はそんなの望んでねぇだろ、ときめいてドキドキして…」
「何回も助けてくれた、ドキドキしてたよ」
「お、俺は好かれるようなことしてねぇ…馬鹿なやつだって、それしか…いや、」
「バカにされるのも慣れたよ、実際バカだもん。最初はマジでムカついたけどね、なんだかんだ直樹ってば優しいんだもん…」
「……でも、合コン…」
「行っていいって言うんだから行くよ。引き止めてくれたら行かなかった。必要とされないならここに居たって仕方ないもん」
長い首に腕を絡ませてすりすりと擦って、ここぞのアプローチを仕掛ければ長岡は覚悟したように遥の肩を掴んだ。
「……ハルカ」
「なーに、」
「麺、伸びる」
「はぁ⁉︎」
座卓の上のカップ麺を指して、長岡は卑怯にエスケープすることに成功する。
・
「ムカつくー…本当だったら今頃お洒落なバーで銀行マンとしっぽりしてたかもしれないのにぃ」
「だな、服着ろよ」
長岡は遥を傍に置いたままズルズルと縮れ麺を啜り、潤みかけていた目も垂れかけていた鼻水も温度差のせいにしようと不必要に湯気を浴びる。
「…直樹ぃ、食べ終わったら…続き、聞かせてよ?」
「なんの」
「きー‼︎」
「分かった、分かった…考えてるから待ってくれ」
「…本能に任せればいいじゃん」
Tシャツの上から乳首を爪の先で擦れば振動が下半身にも伝わり、そこを触ろうとした遥の手を長岡は片手で制した。
「責任を伴うんだよ…そこは俺の誠意だと思ってくれ、ワンナイトなんかしたくねぇんだ」
「ふーん………ふぅ…私もお腹空いちゃった…コンビニ行って来る」
「歩く気か、危ねぇ」
「…じゃあ一緒に来てよ」
「ん、」
カップの底に少し麺を残して立ち上がり、長岡はパーカーの袖に腕を通して鍵を握る。
そしてのそのそと服を着た遥に
「…ハルカ、せっかくだから下着取って行けよ」
とおかしな提案をしてみた。
断るだろう?断れよ、口をへの字に曲げた遥を見つめれば、彼女はニットをもう一度脱いで長岡へ背中を向ける。
「…?」
「直樹が外して、」
「…やんのかよ」
「やるよ、バカだから。直樹、こんなことで私を試すのやめて?私、なんでもしちゃうよ……バカだからさ」
「……パンツは自分で脱いでくれ…」
もたもたと両手で外せば巻き髪を掻き分けた隙間に覗く首筋が白くて綺麗で、男は緊張で腹に入れたばかりの麺を吐き戻しそうになった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる