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9章…悪の道
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しおりを挟む「……そろそろ…出なきゃな…」
強水圧のシャワーに打たれること10分、シャンプーはとうに流れてしまって体は心と反対にほかほかに温まっている。
でもここから出て和臣さんに話し掛けられたらまた涙が噴き出してしまいそう、ぢんと鼻を噛んでそれも排水溝へと流した。
「……」
そういやアメニティーグッズが詰まったカゴの中にT字剃刀があったな、いっそこのまま死んでしまおうかな。私が居なくなれば借金なんてものも宙に浮き、ひぃ様が損をするだけだ。
でもここで死ぬと和臣さんも取り調べを受けたりするのかな、それは迷惑を掛けるからやめた方が良さそうだ。
けれど彼の心に消せない強烈な印象と思い出を焼き付けてこの世から消えたら…彼はきっと他の女性を抱けないだろう。私のものにならないならそれも良いかもね、考えがどんどん暗い方へ走り出すと涙もとめどなく溢れてくる。
「和臣、さまぁ……幸せ、でした…」
シャワーの音に紛れて嗚咽を溢したその時、ドアがガチャガチャと軋んで
「聖良‼︎」
と同じく涙でぐちゃぐちゃの和臣さんが飛び込んで来た。
「あ、やだ、覗くなんて!」
「聖良!き、きちんと施錠しないか、不用心だ!」
「なら開けないで下さいませ‼︎」
「シャワーの音が止まないから心配するだろう……泣いてるじゃないか、もう出なさい」
「嫌ですわ、お化粧も落としてしまって」
「構うか!寝顔は飽きるほど見てる、いや僕は飽きないけどな‼︎」
和臣さんは私の濡れた腕を掴んでバスタブから引っ張り出し、バスタオルでぐるぐる巻きにしてベッドルームへと歩かせた。
ずびと鼻が鳴る、ずるずると鼻水を啜ってはボックスティッシュに手を伸ばして、鼻を噛んだら箱ごと私へくれる。
私がシャワーを浴びている間はずっと泣き通していたのだろうか、和臣さんの目の下はこの短時間で真っ赤に腫れていた。
「あの…私、帰ります。とてもご一緒に居られませんから」
上質なティッシュで鼻を噛んで丸めてゴミ箱を探す。
壁際のデスクの下に見つけて投げ入れたら、バッグの中から替えの下着のポーチを取り出す。
最後の着替えくらい見せて差し上げますわ、これまでは少しでも慎ましく気取っていたけどもうどうでも良い。達磨のように重ねられたバスタオルを剥がしてブラジャーを着けた。
「…すっぴんでか?」
「……夜ですし、誰も見ませんわ」
下着の着け方もお見せしたことが無くて興味津々そう、和臣さんの目は果たしてどこを捉えているのか…顔を向けないので分からないが。
「泊まっていきなさい、二人で居たくないなら僕が出て行く」
「いけません、私が」
「聖良、僕は君に幸せになって欲しい」
「……」
期待させないで、下半身のバスタオルを解いたら抱いてくれますの?取り出したショーツを握り締めたまま自分の幸せについて考える。
「私は…この4年が何より幸せでした。この日が来るのに怯えながらも…和臣さまは私を好きでいて下さった、本当に…幸せでした」
「なら…その幸せを長続きさせる方法を考えないか」
「…契約を反故には出来ません……全てを理解してくれるお見合い相手を探すなんてのも現実的ではありませんし」
「心に決めた人がいるから形だけの結婚だ」、そんなことをしては負の連鎖を起こして家庭が崩壊してしまう。
そしてその家庭すら作れるのか怪しいところ、世継ぎのためだけの正妻とのセックスに送り出すなんて私は出来そうにない。
「ふん…いずれにしても…僕は聖良しか抱けないぞ…聖良はどうなんだ、君の意志を聞かせてくれ」
「ですから、私に意志など」
「じゃあ何故泣いていた!…僕との事実上の破局を悲しんでいたんじゃないのか?」
「……悲しい、です…」
止まっていた涙がまたほろりと落ちる、あぁいけないとショーツを握った手でぐいと拭いた。
和臣さんはあんまりだという顔をして手を引きベッドへ私を掛けさせて、落としたバスタオルで濡れた髪を拭く。
「うん、君の気持ちをもっと聞かせてくれ」
「…和臣さま、が、好き、ですわ…せめて、奥さま候補として育てていただけていれば…こんな気持ちにならずに済みましたのに」
「聖良…君がそう思うなら、僕は結婚はしない」
「…和臣さま」
「君と一緒に…仕事をして愛し合って…それで一生を終えるのも良いさ」
大型犬の水浴び後みたいにタオルでガシガシと擦られて、頭ごとくらくら振られると後ろからぎゅうと抱き締められた。
知っているこの温もり、肌に馴染んで安心感を得る不思議な力、和臣さんと一緒にこうしているだけで私の世界は変わってしまう。
けれどこれは逃避に過ぎない、まるで不倫みたいな道ならぬ恋…私みたいな者が道など語れないが、彼は真っ当に生きなければならない。
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