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1章…人生計画
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しおりを挟む就職してから淡々と過ごすこと半年。伸夫先生が地元のフォーラムで講演をするからと、同じ甕倉出身の私が前乗りのお供をすることとなった。
新幹線を手配して食事を準備して、先生はご自宅にお帰りになるが私は家無しだ。
ホテルを予約する旨を匂わせれば先生は予想通り
「浦船さん、君もうちに泊まりなさい」
と提案してくださる。
「…よろしいのですか?その…ご迷惑では」
「良いよ、うちの…いや、とにかくそうしなさい」
「はい、ではそのように」
何か見せたいものか会わせたい人でもおありなんですね、とは言わず少し困惑する顔を作って、でも最後には微笑んでおいた。
ついにこの日が来たんだ。
その夜、寝る前のフェイスパックをワンランク良いものに替えてベッドへごろんと横になる。
「…和臣さん…か…」
私はその日、伸夫先生の家で長男の和臣さんに引き合わされる予定となっている。
先生は何も知らないのだ。ただ地元遊説の機会ができて都合良く同郷の秘書がいて、それが自身の息子と5歳しか違わないし良き仲になるのではないかと…偶然が重なったことでそんな発想にさせられているのだ。
操作しているのは先生の父親でこれまた元国会議員のご隠居・太郎さまで、私の人生計画を作ったのもこの人である。ご隠居は私の養母に要望を伝え、彼女が「適性あり」と見込んだ私がその役に選ばれた。
ちなみに『要望』は『孫・和臣に男としての自信を持たせる』こと、そして『秘書として公私共に支える』女になることだ。つまり嫁ぐ訳ではなく夜のお供だ。まぁ夜に限らず求められればいつでも応じる、ほぼ毎日共に過ごしてあらゆる点で彼を助けていくという…男性にとって都合の良い女ということだ。
そして彼は適齢期になると由緒正しいご家庭から妻を娶り世継ぎを産ませて家庭を作るのだ。私は練習相手であり暇潰し…そして独りで寂しく死んでいく。
伸夫先生はご隠居がこんな計画を練っているなんて知らずに私を連れて来ようとしている。もし知れば私は仕事もお払い箱になって露頭に迷ってしまうだろう。
だって先生は清廉潔白で正義感に溢れる真面目な議員、父親がそんな汚らわしいことをしているなんて知ると失意で命さえ絶ってしまう恐れがある。
なんせご隠居から私の養母には莫大な金が代金として支払われているのだ。それは私が買われた額、つまりは私は商品として売られたのだ。
その金の出処は疚しいものではないにしても人道に反する行為であることは確かで、父を尊敬し児童福祉にも注力してきた先生にとってはとても信じられないことだろう。
「自分の親が人から文字通り女を買ったなんて…関係も信頼も全部無くなっちゃうよね…」
パックの端が渇いてくると剥がして手で丹念に馴染ませて乳液を重ねる。肌が吸収する感覚なんて分からないけれど、手がさらりと乾けば上からワセリンを塗り重ねて保湿の仕上げとした。
「和臣さんに好かれて…セックスしたいと思わせなきゃ…」
旅行カバンに予備のスーツと着替えに化粧品などを準備してベッド脇に添える。下着は一応セクシーなものと可愛らしいものを用意。初対面でいきなりお見せする機会は無いとは思うがどんな事態にも対応できるよう構えておかねばならない。
まるで女優のように振る舞い和臣さんを魅了してセックスに持ち込み、ゆくゆくは議員になる彼の秘書となり傍に置いてもらう。これがご隠居が希望する私が課せられた任務だ。
なぜご隠居がそこまでするかって、私には全く理解できないが『名誉』のためらしい。親子3代で国会議員になり名を残したい、それに何の価値があるのかは分からないけれどそれ自体が目的だそうだ。
そしてそのためには色恋にうつつを抜かしている暇など無し、仕事に集中するために専用の女を当てがってしまえと…そんな突飛な考えだそう。外で女を買えば目立ってしまうが秘書とデキていても目に付きにくいし、実務もできれば一石二鳥とのことだ。
ちなみに息子である伸夫先生は学生時代からの同級生である奥さまとの恋愛結婚だ。どこかのご令嬢との政略結婚を画策していたご隠居は当時それはそれは反対したらしい。しかし「許してくれないなら地盤は継がない、彼女でなければ意味が無い」と先生は結婚を強行。勘当されるも自力で議員になり子宝にも恵まれたことでご隠居も折れざるを得なかったのだとか。
その息子である和臣さまは言わばご隠居にとっては隔世リベンジなのだ。
遊びは私で行ってもらいタイミングを見てお見合い話を持ち込み身を固めさせる…重ね重ね私はそれに何の意味があるのかは分からない。ただの虚栄心くらいにしか思えない。
けれど私は自身のためにやるだけだ、私にはもう…帰る場所なんて無いのだから。
「…カジュアルも持って行こうかな…でもな…」
講演会の後に和臣さんと食事でもする機会があるかもしれない。でも着替えに帰る時間は無いかも、そもそも休日だからといって彼が在宅とは限らない。でも上手く会えれば嬉しいな、いや嬉しいと言うか都合が良いな。
まだ見ぬ彼の動向に左右される自身の仕事、どこまでも操り人形な私は2回3回とキャリーケースの中身を入れ替えてはイメージトレーニングを繰り返した。
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