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7章…契約の不履行
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しおりを挟む重ね重ね、あくまで私の仕事は愛玩、性処理であり嫁ぐことではない。
実はここしばらくご隠居は和臣さんにピッタリのご令嬢との見合いのセッティングに奔走しておられるのだが、思ったように話が進んでいないらしい。
というのも私との交際を和臣さんは心より楽しんでご家族にも隠さず自慢しているので、見合い候補は下調べの時点で「懇意のお相手が居るならばお受けできない」と当然ご遠慮なさるらしい。
そりゃごもっともな話で、一昔前ならまだしもこの平成の時代に征略だけで結ばれたっていい思いはしない。
和臣さんが見境なく取って食ってしているならまだしもただひとりの私を溺愛してしまっているのだから他の女性は入る隙が無い。
手筈としてはここらで別れなければならないのだ。
そして私が愛人として仕事と体だけの相手を続行し和臣さんの体のお世話を引き受けることとなる。
しかしてこの泣きそうな青年に説明するのは難しそうだ、真面目な人だから「心が切れても体は繋げよう」なんて考えはやはり持てそうにない。
きちんとお見合いをしたらお相手の方に誠実な夫になるに違いない、そもそも時代錯誤なご隠居の計画が破綻しているのだ。
「聖良?」
「…あの、ご提案なんですが、」
「なんだ」
「実は、和臣さまには水面下でお見合いの話が進んでおりまして、その…私、ぼちぼち身を引かせて頂こうかと思っているんです」
「なんだって…」
あぁほら泣きそうじゃない、余計に盛り上がるやつだ。
「その、私は秘書としてお側に居させて頂きます、もちろん真面目にサポートして働かせて頂きます、あと…その、ご希望されれば夜の方も…その、こうしてホテルに行ったりですとか、させて頂きます」
「はぁ?本気で言ってるのか」
「…本気…でして…」
優しい和臣さんと言えどもこの剣幕で迫られるとビビってしまう。
私は誤魔化すように努めてにこやかに振る舞った。
「あの、お部屋に帰りませんこと?ここでは人目も気になりますし」
「…分かった…」
「……」
和臣さんの上着のポケットが不自然に膨らんで虚しく揺れる、あれはきっと私のために誂えたエンゲージリングだ。
素直に戴ければどんなに幸せなことだろう、私が普通の女ならばどんなに嬉しかったことだろう。
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