僕たちが幸せを知るのに

茜琉ぴーたん

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Capitolo13…Sono piena.

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 数日後…
「ラッセルくん、どう?」
行きつけのテーラーで、新しいスーツを試着した先生は片足立ちになり僕へ感想を求める。
 これといった記念でもないけれど、彼女は隔年くらいのペースでパンツタイプだったりロングスカートだったりと新調していて恒例行事みたいなものなのだ。
「良いですね、お似合いです」
「…興奮する?」
「仕事中はそこまでじゃないですね」
「あっそう」
僕の答えがお気に召さなかったのか、先生は眉を吊り上げてから試着室の扉を閉める。
 今回は膝丈スカートで大人しめの薄い桃色、朱鷺とき色よりもっと淡い上品なスーツを仕立てた。

「…店長、ありがとうございます。先生がより魅力的になりました」
「どういたしまして、ラッセルくんもまた作りに来てね。僕も仕立て屋になって長いけど君みたいに脚の長いスラックスは初めてだったよ」
「あは、そうですか」
「プロ40年過ぎても人生まだまだ修行だね、」
「店長でもですか?」
「もちろんさ。君のお父様も体格が良いだろ?あのスーツも作り甲斐があったよ」
「ふふっ、経験値の足しになれたなら光栄です」
 人間に限らず生物は皆歳を取るものだ。何歳で命尽きるかなんて分からないけど、死を感じる間際まで自己研鑽けんさんに励めたらこころざし半ばでも「それなりに充実した人生だった」と満足して逝けるのかもしれない。
 目指すものが創れたかどうかは案外関係無いのかもね、評価は死後に周りが勝手に付けてくれるものだし。

 談笑していると試着室の扉がまた開いて、元の服に戻った先生が肩をコキコキと鳴らしつつ出て来ては応接コーナーのソファーへと腰掛ける。そして湯呑みのお茶を一気にあおった。
「ふー……よし、ラッセルくん、帰りましょうか」
「はい、先生。…肩、揉みましょうか」
「後でね」
「はーい」
 前回よりも親密度が増した僕らを店の主人は「ほう」と眺め、請求書の入った封筒と仕舞ったスーツを袋へ収めて僕へ渡してくれる。
 僕はにっこりとリアクションを返すだけ、上司と部下よりもう少し色の付いた濃厚な関係…に見えたら良いなと意識してわざと思わせぶりに振る舞った。


「一旦事務所に戻りますね。駅前広場のslopeスロープ、そろそろ案を出さなきゃいけません」
「はーい」
 僕の運転を信頼しきっている先生は今日も後部座席で靴を脱ぎ、くぅと伸びをする。
 ルームミラーで隠し見ているとばっちり目が合ってしまった。
「わ」
「なぁに?」
「いいえ、お疲れですね」
「ぼちぼちねー……そうだラッセルくん、次の作品にも本格的に取り掛かろうかと思うの、今夜時間ある?」
「もちろん大丈夫ですよ」
「うん、じゃあよろしく」
 やれやれまた裸の仕事だ。でも今夜はそれだけで終わらない、終わらせるつもりが無い。
 先生だって分かってるはずさ、だって彼女は今日はいつもと化粧の仕方が違う。

 先日、僕は事務所の先生のパソコンのWEB検索履歴に『化粧下地_運動』とあるのを見てしまった。
 先生しか使わないそのパソコンの検索結果でお勧めされていたのは、普段の化粧品よりももっと若向けなブランドのものだった。それも発汗による化粧崩れを防ぐ人気商品だ。
 そして昨日マンションへ送り届けたらあのショッピングサイトからの包みがポストインしてあり…中身はおそらく汗・皮脂に強い化粧下地だろうと踏んで先生のいじらしさに胸を打たれた。
 準備が出来ているんですよね?いつもよりカバー力は落ちるものの昼を回っても崩れてないそのメイク。僕はそれを溶けるくらい落としたい訳だけど、そうしたら先生はカンカンに怒るだろうか。
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