僕たちが幸せを知るのに

あかね

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Capitolo9…Complimenti

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 シラトリさんは僕に固執し始めてる、でも

「…それproposeプロポーズ?」

とジョークのつもりで尋ねたら

「え、何で?はずかしめちゃったあなたの人生を責任持って評価して保障するって言ってんのよ」

と大きな目をまん丸にしてキョトン顔で返す。


 僕はもう僕とシラトリさんのセットでひとつの作品みたいなことか。

 『シラトリ』と言えば『青年の裸像』、それを僕自らが管理することで契約先を決定したり価格を設定したりできる訳だ。

「…早めに言ってくれれば学芸員の勉強とかもしたのに」

「美術そのものの知識はそんなに要らないわよ。まぁ管理とか扱い方とかは覚えてもらうけどね。経理は専門がいるし…作品の評判が上がって本職の方も少しずつ上向いて来てるの。新しいデザイナーさんも雇えそうだし…当初はね、うちの学科から青田買いで確保しようと思ってたの、だからオープンキャンパスとか学祭の学科展にもちょくちょく顔出してたの。でも思いの外個人の制作が波に乗っちゃったから、マネージャーも雇おうかなって……肖像権って訳じゃないけど、私を世に出してくれたあなたへの恩返しよ。レオくんというモデルの使用料だと思ってくれても良いわ…ごめんなさいね、お金でしかお返しできなくて」

「はぁ……良いよ、でも更に良からぬ噂が立ちそうだな。マジ愛人、とか」

「これ以上変な噂は無いでしょ。とりあえずOKってことで良いわね?よーし、就職おめでとう!レオくん!乾杯しましょ‼︎」

シラトリさんは冷蔵庫に用意していたグラスと炭酸飲料を取り出して、勢い良く缶を開封する。

 僕がOKすることは織り込み済みだったんだ。

 見たことないその輸入コーラは毒々しい赤色をしており、グラスのふちからしゅわしゅわと飛沫を飛ばしていた。

「わーい……あの、服着させて」

「知ってる?イタリアとかフランスでは乾杯の時『チンチン』って言うらしいわよ?」

「もー下品!」

「ほらレオくん、ちんちーん!」

「ちんちん……やだ、こんな社長…」



 いつからか僕は大人になってシラトリさんは小学生くらいのメンタルに退行してるみたいだ。

 冷えたグラスを合わせて「チンチン」を連呼し合う異様な光景は誰にも見せられないなと思った。


 ちなみにだが…自宅に帰り父親に就職が決まったことを伝えたらそれはそれは喜んでくれて、けれどイタリア系アメリカ人の父は乾杯には

Congratulazioniおめでとう!」

と聞き慣れない言葉を用いていた。

 父は日・英・伊のトリリンガルだけどこういうお祝い事の掛け声なんかは母語のイタリア語が出るのだ。

 詳しく聞けば乾杯にもそれなりに種類があるそうだ。

 祝杯だったり献杯だったりと用途で分けるそうだが、「一般的なのもあるでしょ」と問えば「やだネ、日本でCin Cinチンチンって言いにくいじゃナイ」と柄になく照れていた。



つづく
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