僕たちが幸せを知るのに

あかね

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Capitolo9…Complimenti

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 そんなある日のこと、

「レオくん、就職はどんなとこを考えてる?」

シラトリさんはいつものように僕をデッサンしつつコーヒーを飲み下してそう尋ねた。

 僕は今月で大学4年生に進級した。

 就職活動も説明会は解禁されたためにスーツでちょいちょい出掛けたりもしている…まぁ今は例によって裸なのだが。

「えーっと…営業とかofficeオフィスworkerワーカーとか」

「そう…あのさ、良ければ私の事務所のお手伝いとかしてみる気無い?」

「手伝い?」

開脚してもろ出しになった股間を一旦手で隠し、彼女へと顔を向ける。

 今日は椅子に掛けて上体は右に曲げるというよく分からないポーズ、そこに意味など無くて筋肉や皮膚のねじれなんかの表現を見せたいのとことだ。

「事務所って言っても自宅兼作業場なんだけど。元々のデザイン事務所は別にあるんだけど、そこに私個人の制作部門を付け足す感じね。本格的に作家の肩書きが付いてから2年ちょっとでしょ、材料費とか売上げ金とか諸々の管理を別個にしなきゃなって」

「え、すごーい」

「あなたが隣に居てくれるとハクも付くしハッタリが効くじゃない?モデル兼マネージャー、ってところなんだけど」

 つまりはこれまでと同じ動くマネキン的な扱いか、

「…収入次第かなぁ」

と漏らせばシラトリさんは魅惑の唇でニンマリ笑い

「これまでのモデル代をまとめて分割お支払いする感じかしら…手取りでこれくらいが基本給の予定よ」

と鉛筆色に汚れた指を数本立てて丸めて金額を表す。

「そこに随時足していくわ」

「いきなりそんなに良いの?」

「もちろんそれ相当に働いてもらうわよ?その代わり私のお世話をお願いね。売り込みとか作品管理とか。歩く広告塔ね」

「……悪い人だなぁ…そうやって僕を離れられないようにするんだ」


 僕はもう彼女へあからさまな好意は伝えてなんかいない。

 ここまでしたんだからと半ば惰性みたいなものでモデルを続けている。

 だから就職して忙しくなれば自然と疎遠になるのだろうと考えていたし、でも忘れられなくてもどかしい思いをするならいっそ県外へ出て物理的に距離を取ろうかななんて考えていた。

 シラトリさんは制作中は僕をモデルとしてしか見ないし、完成品のお披露目会でだって周囲の妄想を掻き立てるような含みを持たせては軽くボディータッチしたりする。

 そんな彼女だから僕から離れればちょっとは惜しく思ってくれたりするんじゃないのかな。

 「お願い、もう一度モデルになって」なんて涙ながらに頼んで来たら儲けもの…とか僕も相当にこじらせていた。


「…引き留めはしないわ、ダメなら他を当たるし。でも気心知れたレオくんの方がやり易いじゃない?世間話もそれなりにしたし……これだけあなたの裸像を広めちゃったから、私なりに責任は感じてるのよ?」

「確かに…市内だけでも2体は僕のチンコが晒されて現在進行形でも恥かいてるからね」

「うん。私が手放したら他の先生とかストリップ劇場とかからお声が掛かるかもしれないじゃない?あなた、ここのところ男性としての色気が出てきたもの。それも表現したい…もうラッセル礼央レオは私の作品よ、誰にもあげたくないわ」
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