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2022…ヒーローと奥さま(最終章)
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しおりを挟む「浩史くん、ねぇ、キスしよ」
両親が仕事で出ている平日の昼間。
ゲーム部屋に篭っていた俺の隣に美晴が座ってそう囁く。
今日は機械の調子が悪く午前だけで作業が終わったらしい。
昼飯を揃って食べたゆるやかな午後だ。
「……やだ」
「けち」
「そういうのは大切な人にしなさいよ」
「浩史くんが大切なんだもん」
この子はまだガキだ。
元カレと幾度もまぐわっただろうが愛の何たるかなんて知りっこない。
俺だってそれは知らないが、一緒に住んでいるというだけで番になるなんて動物園のパンダじゃあるまいし。
もう少しロマンチックな何かが欲しい。
「もっと大人になって、世界が広がったら色んな男と出逢うよ。そしたら俺なんてしょぼくって付き合ってらんねぇと思うよ」
「…浩史くんは、私のこと嫌い?」
「……ノーコメントだ」
「ずるい」
気まずいとか生理的に無理とかなら休日だからって在宅せず出掛けるさ、時計が11時半を回ったら食料のストックを確認して一緒に料理して「美味しいな」なんて食卓を囲んだりしない。
今だってゲーム部屋の扉に鍵を掛けずに隙を作っていた。
いつ入って来ても良いように室内も綺麗にするようにしている。
俺がはっきり「嫌い」と言わないから美晴は諦めもせずどんどんと想いを募らせていく。
それが分かっていて俺は彼女を泳がせている。
「…嫌いじゃねぇよ」
「そっか…なら良い…」
彼女が俺の部屋に住み初めて約2ヶ月。
このゲーム部屋にもパイプベッドを置いて俺の寝室にしたのでもう床で寝る不便さは無い。
こうして親が不在ならどれだけセックスしてもバレやしない、どれだけ鳴かせたってバレやしない。
しかし一線を越えるにはまだ勇気が足りない。
すんすんと鼻を近付けて肩にもたれる小さな頭、この前散髪してキノコヘアにしたもんだから余計に顔が丸く小さく見えて正直可愛い。
もうブリーチはしないそうで、てっぺんから黒髪が見えていわゆるプリン頭になっている。
しかしこれが相思相愛と言えるもんかね、冒険の記録をしっかり付けてからゲームの電源を落とした。
「もう終わるの?」
「ん…昼寝しようかと思って」
「添い寝して良い?」
「ベッドが壊れるから無理」
「じゃあ…浩史くんの、元々のベッドだったら?丈夫だよ?」
「……」
好かれることに気を良くしている、主導権を握って気が大きくなっている。
あるいは夏の暑さに浮かされているだけ、もしくは俺が寝ているところに美晴が勝手に擦り寄っただけ。
俺は意志が弱いなぁ、黙ってエアコンを消して隣の部屋へと向かう。
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