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2010…母親学級バトル
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「ぷは……もうすぐじゃん、確か公休取ってるはずだ…俺の休み予定知ってて隠したな?」
「そ、そんなことないもん」
「俺に来て欲しくないのか、美晴が行きたくないのか、どっちだ?」
「あ、えーと、うーん…」
「……美晴、スッキリ解決とまでいかなくても、サポートくらいはしてやれるぞ」
「……」
まさか俺がモサくて不機嫌面だから他のママさんに見せたくないとかそんなことは言わないよな、分かってはいるが不安になる。
何が嫌なのか、どうすれば良いのか、俺が行かない方が好都合ならばその線も考えるが…もし美晴が強く出られない相手にガツンと対抗せねばならないなら、俺が代理で闘わねばなるまい。
美晴は長めのため息をついて眉をぽりぽりと掻いて、頭で整理しながら話し始めた。
「あのね、前期の…母親学級でね、一緒に受講したママさんがね、なんて言うか、アクの強い人で」
「意地悪なの?」
「意地悪というか…その、座談会でね、かーくん見て『年子?計画性が無いのね』って言われちゃって」
めちゃくちゃ意地悪じゃねぇか、美晴の人を測る物差しは目盛りがガバガバなので余程でない限り『ん?と気になる人』くらいに留まってしまう。まぁ美晴からの伝え聞きだけでは細かいニュアンスは伝わらないが…しかし発言だけで言ってもなかなか香ばしいというか敵意が感じられる。
「はぁ…みんなの前で?」
「みんな、って言っても6組くらいかな」
「それは充分『みんな』だよ」
「その人は初めてのお産らしいんだけどね、『私だったら数年は空ける』とか『上の子が可哀想』とか…何だろ、めためたに言うの」
きっと理想と自己評価と意識が高い人なのだろう。にしても関係無い美晴を貶すのはお門違いだと思うが。
「こうなりたくない」と感じるならこっそり思って反面教師にすれば良いだけで、今さらどうにもならないことを本人に指摘して何になるというのか。
なら悪意をもって美晴を攻撃したということなのか。それならば相手が妊婦で手加減は必要だろうが、俺は嫁を守るために反撃の手を考えねばなるまい。
「ふーん…それ、言われてどう思った?」
「んー…経験してないのによく知ったふうに話せるなって思った」
「そこか。腹は立たなかった?」
「立つよ、もちろん…でもその人の言い分も一理あるし計画性無いのは本当だし」
「ふはは、ぐうの音も出ねぇわ」
美晴の細い肩をもにもにと揉んで、「辛かったな」と顳顬に口付ける。
求めたのも信用ならないバイオリズム情報を提供したのも美晴だが、それを良いことに腰を振り種付けをしてしまったのは俺だ。だから責められるのは俺で、美晴だけが責任を負う必要は無い。
「辛くないよ、驚いただけ。でも私のことはともかく、子供のこと言われちゃうとな…実際、この子が産まれたらかーくんは寂しい思いするのかなって…悪いことしちゃったなって…モヤモヤしてる」
「…うちの両親だって頼って良い、俺だって融通利かせるし…美晴みたいな愛情深い母親の下に生まれて、可哀想な訳無いだろ」
「そう、かな?」
「これからイヤイヤ期に入るし赤ん坊優先で寂しい思いはするだろうよ、でもそれは何歳だろうが同じだ、年子だからどうとかじゃねぇよ…たぶんな。必要なら託児所だって考える。産後半年くらいは預けられるはずだ」
「…うん」
サポート体制はある方だと思うのだ、短期でもシッターや家事代行サービスを導入したって良い。
自治体も児童福祉に力を入れているし、子連れで外出しやすいようにノンステップバスの便数や駅のエレベーターも設置数が増えてきている。使えるものは何でも使えば良い、対価が必要なら支払えば良いのだ。
「親父もお袋も孫の誕生を楽しみにしてる。姉ちゃんもな…関係無い奴の言葉なんか知るもんか、んなことで美晴が悩むことねぇよ」
「……ありがと、浩史くん…話して良かった」
「他には無いか?言われたこと」
「んー、髪型、『お洒落に手が回らないのね、可哀想。私なら…』って。その日は浩史くんがくれたお気に入りのシュシュだったんだけどなぁ」
「…容姿に言及するとはけしからんな」
絶対可愛いだろうが。場違いなファンシーショップの店先で子供を抱っこして長考して吟味したシュシュだぞ。美晴の小さな頭に大ぶりなフリルが似合うと思ったし実際似合うんだ。毛量の豊かな黒髪に映えるカメリアピンク、『気取らない優美さ』を花言葉に持つ椿の名を冠する色だ。
「ひとつ括りが野暮ったかったのかな、楽で良いんだけどな」
「…ほ、他には無いか?」
「服も言われたかな、『世帯じみてるわね、私の服はどこどこのブランドの~』って」
最近の美晴はもっぱらファストファッションで、しかし余計な飾りが付いておらず肌触りの良いものを選んで着ている。
抱っこしても子供の顔を傷付けないシンプルなデザイン、万が一汚しても普通の洗濯で良いしサイズも豊富なので俺もペアで同じものを揃えている。照れるので外では着ないが。
そのママさんの指す服はマタニティ専門の洋服ブランドなのだろうか、それこそ「お好きにどうぞ」というものだ。
「あー、下品だなぁ」
「かーくんと遊んだりご飯のお世話してると汚れるし、気兼ねなく洗えて助かるんだけど…好みはそれぞれだよね」
「そんだけか?あるなら吐き出しとけよ」
「んー……お化粧が素っ気ないとか。そりゃね、昔みたいにケバケバしたお化粧はもうしないよ。かーくんが触るしね、ネイルもしないし、浩史くんと出掛けるならそれなりにするけど…検診の日は顔色も見たいって言われてて、日焼け止めと眉毛描くだけにしてたから、余計に質素だったかもね」
「ふん。正解だよ、TPOに見合った格好をするのが大人だ。化粧品の匂いで他のママさんが体調悪くするかもしれないしな…美晴は間違ってない。まぁ派手な化粧をしたいママさんはすりゃ良いさ、してない人にわざわざ言うのが間違ってる…もうこれだけか?」
もう聞くだけ馬鹿馬鹿しい、これでは美晴が黙っていたのも頷ける。ひとつひとつは小さなモヤモヤだしトピックとして取り上げても「そんなことか」といなしてしまいそうだ。
しかしここまで重なれば相手さんの悪意を確かに感じる。
そしてまだ秘めたものがあるみたいだ。
美晴はしゅんとなり俺のパジャマの脇の下に鼻先を挿してため息を吐いた。
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