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2010…母親学級バトル
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しおりを挟む「……」
「なに、全部言えよ」
「……『こんなに女を捨てちゃったら、旦那さんに愛想つかされちゃうわよ。まぁ貴女と釣り合うレベルな旦那さんなんでしょうけど。うちは~…』って」
「………はぁあああ⁉︎」
俺は美晴と交際を始めた時からどっぷり惚れているんだ。
彼女から『女』が消えたことは無いし俺の『男』はずっと反応し続けている。
「今日のご飯、どうかな?」と自信なさげに笑う顔だって「ゴキブリが出たぁ‼︎」と泣き叫ぶ声だって。
「お向かいの猫ちゃん、なかなか懐いてくれないんだよね」と憤慨する時でさえ充分に魅力的で愛しい女性だ。
だいたいすっぴんだって見慣れているのだから捨てるも何も無いだろうに。
相手さんは家でも気を抜かず武装して旦那をもてなしているのだろうか。
「…美晴、よく聞けよ。まず俺はお前を愛してる」
「きゃ♡」
「不器用だけど日々奮闘してるのも知ってる。10代の頃から見てんだからちょっと小汚い格好したくらいで嫌ったりしない。あと俺は人前に出る仕事してんだ、最低限の身嗜みと通報されない振る舞いは出来てるつもりだ…美晴が恥ずかしくないなら、次の母親学級、俺も付き添わせてくれ」
世間的なビジュアル評価では美晴の方がレベルは上だ、色白で幅広二重の美人さんだ。
俺はモサいというか視力のせいもあって目つきは悪い。
不細工と言われたことは無いが流行りのイケメンではなかろう。
ひと昔前は児童に挨拶しただけで通報されかけたが、エンタメコーナーで子供と触れ合ううちに要領を得たというか愛嬌が出てきたようにも思う。
適度に歳を重ねたのも要因だろうが、自分で自虐するほどの不審者顔ではもうなくなってきている…と思うのだ。
「も、もちろん…あのね、言い返そうと思ったんだけどあまりにこう、向こうの手数が多いから戸惑っちゃって…私はともかく、浩史くんのことを悪く言われたのが一番悔しくて…溜め込んじゃってた」
「何でも話してくれ。忙しいけど、子供が寝てからでもベッドででも良い、そういう愚痴とか取り留めのない話、聴かせてくれ」
「うん」
「…ストレス溜めずに、元気な子を産んでくれ」
「ふふ…浩史くんが優しい…嬉しい♡」
「俺はいつも優しいだろ」
「うん、今日は特別優しい…愛してるよ、浩史くん」
「あぁ、俺もだ…美晴、」
愛の言葉は滅多に言わない、さっき放ったばかりだからここは省略だ。
それは恥ずかしいのと一回あたりの価値を高めるためだ。
簡単に数を打つ美晴のそれが軽い訳ではないが態度は大きく気が矮小な俺はそんなところでも妻より上に立っていたいのだ。
求められるから応じる、好かれているから安心する、このマウント心理に美晴は気付いているだろうか。
いやきっとまだ知らないだろう。
「ねぇ、前向きで抱っこして、もう一回したい♡」
「対面座位?むずいなぁ…」
愛する我が子を愛し合う父母で挟んでもう一戦。
ぴょこぴょこ跳ねる美晴は可愛いが俺も下から頑張り、この夜の疲れのお陰で美晴も朝までぐっすり熟睡できたようだ。
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