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おまけ・浩史の懐古

中編

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 実際、腹は痛くないらしい。

 俺は男だし感覚が分からないから説明してもらったのだが、「股が常に濡れていて、腰に紐を付けて臭い水風船をぶら下げている感じ」と言われそれもよく分からなかった。

 ホルモンバランスが崩れるとメンタルにも影響するらしい、基本ポジティブな美晴がここまで挫けるのはきっとそのせいなのだろう。

「……ずびっ」

 背中でめそめそと泣く声が続いて、いよいよ俺も謝ろうかという想いが強くなる。

 しかし「なら奉仕させろ」と強行されても困るしな、モヤモヤしているうちにプレイしていたゲームがひと段落付いた。


「……美晴、」

「……」

「寝たのかな」

「ねたよぉ」

「起きてるじゃねぇか……悪かった、心配してんだ。分かってくれ」

 振り返ってワシワシ頭を撫でると、美晴は真っ赤な目を細めてうっとり微笑む。

「ワガママ言ってごめんなさい…」

「俺はこういう時にエッチなことを『しろ』なんて言わないから……その、どうしてもイチャイチャしたいんなら美晴が『して欲しい』ことを言ってくれよ。腹をさするくらいならしてやるし、あったかい飲み物持って来るとか手を握」

「本当⁉︎」

泣きウサギな美晴はぴょんと跳び起きる。

「な、何だよ。急に動く」

「触りたい、浩史くんに触りたいの。良いでしょ?」

「それ、最初の希望と同じじゃねぇの。却下」

「えー………あ、なら、」

 美晴は口をむにむにと震わせて、

「じっとしてて、浩史くん♡」

と魅力的な上目遣いで俺を悩殺した。

「ふぐっ」

「浩史くん、動かないで、抱き枕みたいになって」

「あー、そういうことなら」

「私の部屋のベッドに行こう、並んで寝よう♡」

「うん、寝るんなら…」


 薄々分かってはいたが、美晴の部屋に入って揃って寝転んで、「じっとし」た俺は美晴の好きにされた。

「ッ…おい、ぅあ…」

「ぷにぷに♡」

「あー、おい、変な体勢になんなよ、体調ゔ」

「はむ、んッ…ぷは…大っきい♡」

「あー、もう、もう…」

「ここは?ん?えいっ」

「ほゎあッ」

 さすがと言うのか愛情と執念のなせる業なのか、美晴は俺から猛りを搾り取って、安心して眠りについた。


「(…かわいい)」

 俺の腕の中で、美晴はすぅすぅと寝息を立てる。

 顔色は少し青白くて、女性は毎月大変だなと同情してしまった。

「(俺がいなかったら、美晴はどうなってたんだろう)」

 同居を始めてもうすぐ3年目に突入する。

 俺は順当に昇進の話が舞い込んで来ており、断る理由も無いので受けるつもりでいる。

 肩書きが出来て給料が上がる。

 美晴ひとりを養うには蓄えもあるしまず問題は無かろう。

 これまでと同じようにバイトでもして気楽に過ごし、時間をかけて晩御飯を作って俺の帰りを待っていてくれれば良い。


「節目だからなぁ…結婚、してくんねぇかな、美晴」

 夢でも見ているのだろう美晴はムニャと寝言で笑い、心地良さそうに半目の間抜け面を晒す。

 これが俺の最初のプロポーズ、言ってみたら想定以上に恥ずかしく顔がじんじん熱くなった。
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