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2・めぐめぐプロポーズ
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しおりを挟むさてこれは私と周が熊倉家の長兄・猛さんの結婚式に出席して帰って来た日のこと。
「ふー…疲れた…」
「周、落ち着いた?大丈夫?」
私はお茶を一杯、周のカップに注いで差し出す。
昨日は泊まりがけで、駅前の市内最大級かつ最高級の結婚式場に出向いていた。
私はまだ婚約者という立場だが、ご招待して頂いた。
せっかく親族が多く集まるとのことで、お目通りもしておけば都合が良いかと思いお受けした次第だ。
ご機嫌な周はいつもより多めにアルコールを嗜み、宴の後はベロンベロンで就寝した。
式場のほど近くに系列のホテルがあり、下戸の弟のために猛さんが手配してくれていたのだ。
なので市内から市内へ出掛けて、市内のホテルにて宿泊し市内の自宅へと戻って来たところだ。
「…さすがに一晩経ったし…でも勿体無いよね、せっかくの外泊だったのにいちゃいちゃしなかった」
「早い段階で酔っ払ってたもんね、周…」
長年浮いた話の無かった長兄の慶びに、弟たちは弾けてしまったようだ。
乾杯のシャンパンから目色がおかしく、一皿目のアミューズが卓に届いた時には顔色が紫になっていた。
この熊倉兄弟は長兄・猛さん以外は下戸で、猛さんだけ異様にアルコール耐性が強い。
全員が身長185センチ越えの巨漢揃いなのだが、内臓機能は差があるらしい。
猛さんは189センチで柔道有段のがっちり大男、癖っ毛長髪でヒゲ面の文筆家である。
半引きこもりで汚部屋製造機だったのが、奥さま・菜穂さんと出逢い人生がガラッと変わってしまったのだとか。
「だって嬉しいじゃんか、将来の心配しながらヒゲ伸ばしてたタケ兄がよ、あんな立派に…」
「うんうん…ヒゲを伸ばすのは目的じゃないよ……スーツ掛けとくね、私たちもゆるい格好になろうよ」
また酔いがぶり返しても面倒なので、私は礼服一式を先に片付けた。
ルームウェアに着替えようと外着を脱ごうとしていると、ダイニングに座っていたはずの周の手が腰に触れる。
「わっ、」
「…萌、いちゃいちゃしよ、すっげぇムラムラしてる」
「あ、分かっ…た、うん、分かった、」
首元をスンスン嗅がれ、腰に硬いものが当たる。
じょわっと滾るこの感じ、もちろん嫌いではないが…周の抑えが効かない場合が恐い。
なんせ巨漢で巨根、ちなみにこれも兄弟揃ってなのだとか。
私のことを慮って加減をしてくれていた周だけど、酒が残っていてはっちゃけてしまったらどうしよう。
無茶をされたくない、酔いが覚めてショックを受けるのは周だろうし。
「萌、大丈夫、正気は残ってるから」
「残ってる程度じゃ恐い、あの、落ち着こ、」
「二日酔いなだけ、昨日の萌のドレス、すげぇ可愛かった…僕の結婚式でも着て、」
「周との結婚式なら、私は白を着るよ…」
剣道着に似た濃紺のワンピースがお気に召したらしい、式前に見せた時に既にムラついていたのは知っている。
周は私と剣道のイメージが切れないのか、ボリューミーな服よりもストンと落ちるスレンダーなものを私に着せたがる。
今回もたまにのことだから、私はフワフワのフリル付きのAラインワンピースをネット注文しようと考えていた。
しかしスマートフォンの画面を覗いた周は無情にも却下、あーだこーだと条件を付けてスリムでパリッとした印象のエンパイアドレスに決定した。
文句を言えば「僕が支払うから」と採寸を強行し、私はほぼ剣道着フォルムで結婚式に臨むことになったのだった。
「んー…僕、あらゆる萌のスタイルの中で、剣道着が一番好き、本当はあれでシたい、でもさすがに、」
「落ち着いて、気持ちは分かった、」
「袴、解いてさ、あー…ダメだ、童貞の頃の妄想が吹き出してる」
「そうなんだ、とりあえずお水をもう一杯…」
しな垂れ掛かる巨体をキッチンへ押し戻そうと両手を胸につくも、周はクルリとその身をかわす。
そしてさっき掛けたばかりの私のドレスを掴み、
「着て、脱がすから」
と破綻したことを言い出した。
「周、落ち着こ」
「着替えて、これ着た萌を抱きたい」
「分かった、着たら良いのね?」
「脱がすけどね」
「……」
行為自体は嫌ではなくて、浮いた頭でも願望を吐露してくれたのは嬉しかった。
けれどリミッター外れかけの周をなんとか操縦したく、どうどうといなしつつ着たばかりのルームウェアを脱ぐ。
「ファスナーはそのままで良いよ、あ、半分開けておいて、下ろしたい」
「うん、あの、ゴム着けてね?」
「当たり前じゃん、そこまで酩酊してないよ」
「周があまりにテンション高いから」
言いつけ通りにドレスを着れば、上げたファスナーをすぐさまチィっと下げられる。
そして腰を抱かれベッドへダイブ、ばすんとマットレスが揺れた。
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