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2・めぐめぐプロポーズ
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しおりを挟む「萌、今度、道場にも挨拶行こう」
「うん、久々に稽古付けてもらお」
肌着だけ身に着けて、協力し濡れたシーツを剥がす。
汚れたドレスもクリーニング用のバッグに入れて、玄関に運んで置いた。
「萌の立ち姿、綺麗だから子供たちに見せてあげなよ」
「それ言ってるの周だけだから」
「……」
「なに?」
「ううん、僕、萌の勝ちにこだわる姿勢も好きなんだ。勝ち負けの結果はともかくね」
「まぁ、周には負けたことないし?」
接待試合を暴露されたから、これは自虐も含んでいた。
周も分かっているから、コーヒーを飲みながら「ふふ」と返してくれる。
「(忖度試合だったけど、本気の実力は…分からず仕舞いだから、言ったもん勝ちだよね)」
この時の私は自嘲しながらも、ベッドはともかく、剣道ではまだ勝ち目があるなんて甘い考えをしていた。
手加減をしていたと明かされても、実際に本気で手合わせをしていないので真実は分からなかったし。
相手が現役社会人選手とはいえ私のすばしっこさで押せると思っていたし、連勝記録が根拠なき自信となっていた。
この先真剣に剣を交わす機会はどうせ無いと思っていたから、勝ち逃げを堂々と宣言してやったつもりだった。
「強気で、勝った時の笑顔、あれが堪んないんだよね、可愛くて」
「…まだ酔ってる?」
「ううん、良いじゃん、たまには惚気たい」
「そう…私も、強い周が好きだよ」
「ふーん、じゃあ、強いところ、見せなきゃね」
「(次の大会のこと、かな…?)」
身支度を整えて、お急ぎモードで洗ったシーツをベランダに干す。
晩秋の日差しだから夕方までに乾くかどうか。
「替えもあるし」「そだね」なんて呑気に構える。
私たちは窓際で数回キスをして、愛されたドレスと礼服を抱えて家を出た。
数分前まで繋がっていたことが信じられない、私たちはサラッと気取らないカップルを装い街を歩く。
クリーニング店でドレスの汚れ確認をしている時は気恥ずかしく、愛液の染みと粉吹きだなんて言えなくて吃ってしまった。
周はそんな私の姿も「かーわいい」と馬鹿にして、帰りは私の腰をグッと抱いて歩いた。
そして照れる私の耳に
「夜は素面でね」
と吹き込んで…勝利を確信した彼は私の返事も待たず、澄ました顔で笑うのだった。
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