受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「…はい、えぇ……は?……はぁ、へぇ、」

 電話は長引き、20分を超える。

 真澄の相槌は時に間抜けなもので、しかしその表情は硬い。

 菫はうとうととしながらもベッドを離れず、通話が終わるのを待った。


「…はい、では。失礼します……ふぅー…長かった」

「お疲れさま、何を話し込んでたの?」

「んー、大槻さんのこと。あの人、新人らしいんだけど、前に新郎に粉かけてカップル潰ししちゃったらしいんだよ」

「はあ?」

 真澄が式場から聞いたことによると、大槻は男漁りが趣味で、ナチュラルに「全ての男性は私のことが好き⭐︎」という思想を持っているらしい。

 見学に来たカップルの男性に馴れ馴れしくしたり、こっそり連絡先を交換したり、「私は貴方に気があります」というアピールをするのだそうだ。

 結婚が決まって気が大きくなっているとその手に乗ってしまうそうで、式の準備から当日までの割り切った仲だと後腐れなく遊ぶ男性もいるようだ。

「あの地元同じアピールもテクニックのひとつらしいよ。冗談だとしても緊張がほぐれて、心の距離が縮まるじゃない」

「…それに引っ掛かった旦那さんと知らずに結婚した新婦さん、可哀想過ぎる…」

「突っぱねる人もいるし、僕みたいにクレームを言う人もいる。連絡先を貰っても連絡しない人もいただろうし…直前でブレーキ掛けた人もいたと思う…よ」

「大問題じゃない…信じられない」


 新しい式場で価格帯は平均より低め、とすれば客は若年層が多くを占めているそうだ。

 年齢で単純にくくれはしないが、まだ身を固めるには躊躇のある若者が主に被害に遭ったのではないかと…真澄は推測する。

「彼女との間に波風立てたくないから黙ってたり、後ろめたいから黙ってたり…表面化はしてたろうけどね、大槻さん、式場の経営者の娘さんらしいんだよ。オーナー令嬢って言ってた。だから支配人も強く言えなかったみたい」

「あ、だからクレームが支配人止まりで、同僚もノータッチで……って、そんな式場、潰れちゃうよ」

「いずれ、そうなるかも…」

 二人は顔を見合わせて、「なんだかねぇ」とばかりに微笑み合う。

 裸で真剣に話をして、少し可笑しかった。
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