受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
66 / 88
おまけ

懸念と相性

しおりを挟む

 すみれ真澄ますみが、交際を始めたばかりの頃。


「真澄くんって、なんで事務方なの?」

菫はぼんやり抱いていた疑念を真澄にぶつける。

 真澄は人当たりが良く対応が丁寧で、見た目も爽やかな好青年である。

 売り場に出せば人が群がりそうなものを、と菫は疑問に思っていた。

 というのも、菫はかつて都落ちのような形で事務へ異動している。

 営業が向かなかったために事務へ、という配置換えであった。

 適性に沿ったと言えば聞こえは良いが、花形の営業と比べると給与も下がるし島流しのように感じる者もいるのは確かだ。

 有能な真澄が事務方にいるなんて、何か余程のことでもやらかしたのかと…そう菫は勘繰ってしまった。


「あー、もちろん最初は売り場だったよ。でも2年目くらいでパートさんの不祥事があって、横領みたいなの。必ず正社員を置いて回すことに決まっちゃって。一番若い僕が入った感じ」

「じゃあ、売り場はそんなに?」

「そうだね。ある程度のことは経験したけど、稼ぎ頭にはなれてなかったね。中規模店は人員も少ないでしょ、だからベテランを売り場から外せなかったみたい」

 本人の不祥事ではなくて良かった、菫はこっそり安堵する。

 そして単純に不適材として売り場を追われた自分が恥ずかしくなった。

「…そっか、私は売り場が向かなかったから降りて来たんだけど…真澄くんなら、どこでも活躍できそうだね」

「どうなんだろ…機会があれば、また営業もしてみたいね。菫ちゃんは?」

「わ、たしは事務が合ってると思う…うん、」

「…そうだね、だからこそ僕らは出逢えたんだもんね、運命的な人員配置に感謝だね」

 妙な含みを感じるも、真澄はそれ以上は掘り下げなかった。



 ここから二人は時間をかけてさらに仲良くなり、真澄は菫が経験したことの詳細を知る。

 そこを励ます目的が全てではないが、真澄は菫の声質や話し方をより褒めるようになった。

 実は真澄も、菫の表情や声色を無愛想と感じる時はあったりする。

 しかしそれは無闇にではなく、菫本人が確かに不機嫌である時なのだ。

 つまりは本意を理解できている、心理を読めている。

 こうした部分もつくづく相性なのだなと、真澄は感慨深く思うのだった。



おわり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...