受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

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　そして、丸く治まったと思えるこの事件において、菫は釈然としないモヤモヤを残したままだった。

　結果として式場が潰れたが、他の真面目に働いていたスタッフが気の毒だしスカッとはしない。

　しかもその事を知ったのは式場見学からしばらく後だったので、怒りが治まっていたし「へぇ」と思うくらいだった。

　自分で反撃したものの大槻には響いていなかったし、結局彼女は控えていたデータから真澄に電話を掛けて来た。

　忘れた頃に怒りを再燃させられて、菫は腹立たしかったしやるせなかった。

　大槻は反省もしないだろうし、同性からの意見はスルーするタイプの人間なのだろう。

　何か障さわりがあるのかもしれないが、もう関わらないので大槻については考えないことにした。
　

　さて、菫は言いたいことは言えたが、真澄の対応は紳士的過ぎとも感じていた。

　激昂し罵ればそれはそれで引いてしまうが、パートナーが侮辱されたことに対しての怒り度が足りてないのではと菫は引っ掛かっている。

　可哀想とヨシヨシされたいのではなく、せめてもう少し熱量を持って闘ってもらいたかった。

　これから先に同様のことが起こったとして、なあなあで済まされたらこのモヤモヤがどんどん膨らんでしまう。

　優しく寛容で物分かりが良く大人なところが真澄の良いところだが、菫も感情を殺して赦ゆるさねばならないのは辛い。

　今は大丈夫でも、辛抱させられ続けると不満が募るだろう。

　真澄は自身の＂見え方＂の為に遠慮している訳ではない。

　けれどもう少し守る姿勢を見せて欲しい。


　「でも配慮が出来る真澄くんのことは尊敬してるんだよなぁ」…式場がいよいよ決まった頃、菫はそんな雑念を頭の片隅に置いて準備に動き出すのだった。



つづく