お嬢の番犬 ピンク

あかね

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ピンク

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「お嬢、今日はスイミングやけどそのまま行く?まだ時間あるからどっか寄ろか?」

和久わくは学校の守衛所を通過して正門から車を出し、バックミラー越しにみやびへ声を掛ける。

「そのままって、水泳道具が要るやんか、帰らな」

彼女はその清楚な佇まいとは裏腹に、年相応の喋り方で彼ら2人と接していた。

「あぁ、任してよ。トランクに載せてんよ、プールバッグ」

 そう言って助手席の垣内かいちがドヤ顔で振り返ると、少女の頬がみるみる紅くなっていく。

「…誰が詰めてん?水着はうちの部屋にあったやろ?」

「ワシ」

「……ちょっと嫌‼︎勝手に触らんとって!変態!」

「うぃ、聞いたか和久ちゃん。言われてんぞ、この変態」

「…非道い言い草やなぁ、かいちゃんがせっかく用意したったのに」


 自室のクローゼットから水着を出す垣内を想像すれば相当な羞恥を感じたのだろう、雅は真っ赤な顔でぷるぷると体を震わせた。

「ホンマやで、和久はん。ヘンタイて、ガキンチョのスク水に誰が欲情するかいな、最近の小学生はマセてまんなぁ、」

「…言ったね?…和久まで…あんた達、お爺ちゃんに言いつけてやんだから」

「え」

祖父の名が出た途端これはふざけ過ぎた、と垣内は顔色を変える。


 彼女の祖父は神石家の当主で家業の創業者、いわゆるボスなのだ。

「ちょい、ちょい、お嬢…嘘よ、ちゃんとミユキさんに出してもうてん!俺は詰めた後で受け取ってん…ホンマよ、」

ミユキとは雅の身の回りの世話をする女性の使用人で和久の妻、この垣内の弁は真実であった。

「子供の喧嘩にジジイが出張ってくるんは大人気ないわ…親父さんは勘弁よ、ほれ、ワクちゃん、謝れ!」

 言いつけられるのは困る、と垣内が雅をなだめにかかるも、和久は我関せずと真顔で運転に専念し始めた。

 一部山をひらいて建てたこの学園、麓までの長い坂の途中に稀にだが野生のたぬきや猪が飛び出してくる事があるのだ。


「あんた子供とちゃうやん。大人気ないって、うち大人とちゃうし、」

「悪かったて、な、せや、クレープ!商店街に新しい店できとんねん。なんや、くるくるの。お嬢、明日歯医者やろ、先に甘いもん買うたるからや、機嫌直しや、」

「!」

 学園の丘の麓には幹線道路が東西に走り、それを越えた所に小さいながら地元民御用達のアーケード商店街が展開されている。

 その中に、最近持ち歩きに向いたワンハンドスイーツの新店舗ができたらしい…垣内はそのスイーツで怒れる雅の懐柔を図ろうというのだ。


「……………食べる、けど…」

「よーしよし、」

 幼い少女は垣内の提案に渋りながらもやはり年相応の表情をして、怒りを収めた。

「へい、和久ちゃん、車回して頂戴」

「おう」

和久は麓へ降りてからの車線を間違わないよう頭の隅に留めておく。
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