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2・森のサイン会
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「そういうことだ。俺の作風云々は仕方ねぇよ、技術不足だ。モテねぇのもモサいのもな。こいつが地味なのも概ねそうだけどな、だから何だって話だ。あんた、ここまでコケにしておいてまだ俺と組もうなんて思っちゃいねぇよな、通告通り次の作品からはあんたに頼まねぇからよろしくな。短い間だったがありがとうな」
「や、約束が違う!弁当食べたら更新するって言ったじゃないか!」
「言ってねぇよ。お前、弁当に何か盛ってるだろ。怪し過ぎんだよ」
図星なのだろう、森野先生はアワアワと震え出す。立ち上がった拍子にガタンと椅子が倒れ、脚に引っ掛かったのか森野先生も尻もちをついた。
するとどうしたことか、森野先生はそのまま起き上がれなくなってしまった。頭痛を堪えるように片面を歪ませて、頭を持ち上げるもふにゃっと倒してしまう。
「…クッソ、妙義先生、も、食ってた、のに、なんで、」
「量が違う…俺もそこそこキてるけどな…目的はなんだよ」
「だーかーらぁ、ドーテー作家の顔、拝みに…」
そこからは、上手く聞き取れなかった。
森野先生は両目を閉じて静かになり、イビキをかき始める。
「…熊さん、吐いた方が」
「いや、睡眠薬だろうな…下剤か睡眠薬のどっちかと踏んでたんだ。ガチの毒ならヤバかったな」
「熊さん、冗談じゃ済まない、」
熊さんは椅子にどっかり座り、「ふー」と深く息を吐く。
「焼肉のタレ、あれに薬が入ってるとみた。弁当の紙テープは剥がされた痕が無かったが、タレを留めるテープがセロハンだったろ?普通はそっちもロゴ入りの紙テープで留めるんだよ、ここの店は」
「そう、なんですか」
「ペットボトルとかと違って、ただのキャップだから開封済みでも分からんしな。こいつは買ったの初めてだったんだろうな、角の漬物用の窪みに入れるのが通ってのも嘘だ、ブラフだよ、ドバッと掛けるのが王道の食い方なんだよ…漬物は最後にひと口分の飯と合わせて食うのが通なんだ…エアプだと思って、カマかけて煽っちまった…お陰で少しの摂取で済んだけどよ」
熊さんは本当に高級焼肉屋さんを利用しており、焼肉弁当にも馴染みがあったらしい。
だから異物混入が察知できたというのだが、それにしても危険過ぎる。
「熊さん、本当に危険な毒だったらどうするの、死んじゃう、」
「んー…元端さん、俺のタレ、証拠になるから取っといて…あとそいつの身体検査して、それかこの近辺のトイレとかのゴミ箱…指紋付きの薬のゴミが出てくんだろ…」
指示された元端さんは、床で寝こける森野先生のポケットを探る。するとあっさり、薬品名の書かれたアルミシートが出て来た。空になっている所が数ヶ所、あとは中身がまだ残っている。
「…睡眠薬ですね、超短時間タイプです…にしても森野先生は落ちるのが早かったですね。僕の経験上、効くまで10分は掛かると思いますが」
「プラシーボじゃねぇの?そいつドバッと摂取してたから…『ヤベェヤベェ』って意識して食ってると、思い込みで眠くなっちまったとか…な、」
「医療スタッフを呼んでますから、妙義先生も気を確かに!」
元端さんがパタパタと動いてくれている間に、隣の熊さんの体が一瞬でズンと重くなった。
「あ、」
「……」
「熊さん、熊さん!」
熊さんの巨体に押し潰されながら、支えながら、しかし彼は椅子から滑り落ちてしまう。
私は巻き込まれて下敷きに、医療スタッフの方々が起こしてくれるまでの数分の間ペタンコになっていた。
土日・祝は各階でイベントが行われており、集客があればトラブルも起こりやすいとのことで書店は派遣の医療スタッフを契約して待機してもらっているそうだ。床で倒れている森野先生と熊さんを診てもらい、使われたであろう睡眠薬のシートも確認してもらった。詳しくは検査が必要だが、使われたのがこの睡眠薬だけなら2時間程度で目を覚ますだろうとのことだった。
「(熊さん、ここのところ寝不足だったから…眠りが深いのかな)」
熊さんは厚い胸を上下させて、静かに眠っている。もし食前の攻防が無ければ、今頃私がこんな風に眠りこけていたことだろう。私が代理をしていなければ、熊さんと元端さんがこうなっていた。
おそらくだが、午後の部のサイン会を駄目にするのが森野先生の目的だったのかな、と私は考えている。
2人がすやすや眠る控え室は異様な雰囲気で、元端さんは森野先生が起きたら警察を呼ぶ予定らしい。そうすると私も何か聴取を受けるはず、お弁当がどのように誰に回ったかは覚えているのできちんと答えようと思う。
それから…
「むにゃ……あ、あ、」
目を覚ました森野先生は、すぐに警察署へと連行された。
状況証拠と物的証拠、それぞれの証言、そして本人の自白により森野先生が睡眠薬を盛ったことが確定した。
もちろん森野先生は捕まり…正式に出版社との契約は切られることとなった。
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