嬉野エリア長の調査報告書…娘と会社の治安は僕が守る。

茜琉ぴーたん

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調査・皇路本店

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「……嬉野うれしのさん、どうかされましたか?」
「ん、なんでも…あぁ、葉山はやまくんか、お疲れ様」
「お疲れ様です」
 宙を見つめる僕を不審に思い通りがかりに声を掛けたのは白物担当の葉山りゅう(25)で、入社3年目ながら豊富な知識と甘いマスクで客ウケの良い好青年である。
「葉山くん、黒物から白物に変わって…どう?」
「学生の時に派遣で白物を売ってたのでなんとかいけてます」
「うん、期待してるよ……ところでさ、浜田はまだくんって居たじゃない、先月転勤した」
「はい、関東にでしたっけ」

 そう、僕の娘を誑かした男の名は浜田、九州地区からの転勤で兵庫にやって来た若者だった。
 彼の担当は時計やガスライターなどのいわゆるブランド雑貨で、近年縮小傾向にあるその部門から家電へ鞍替えすることを頑なに拒んでいた。皇路本店で家電を売るか、関東へ転勤してブランド担当になるか、背負う物も特に無い彼は少しも悩まず後者を選び飛び立って行った。
 しかし立つ鳥跡を濁さずとはいかなかったようで、傷心の女性が少なくとも2人は生産されてしまった訳だ。
「うん、その……どんな人物だった?ここへの出入りは僕が担当したんだけど、残念ながら人柄まで知るには浅い関係だったから」
 浜田がこの店に在籍したのは1年と少し、売り上げデータなどから仕事ぶりはある程度見えたがパーソナルな部分までは踏み込めなかった。
 僕は次なる管理職候補者に注目して早くから声をかけたりするのだが、浜田所属のブランド部門にはフロア長というものが存在しなかったためにそこまで目をかけていなかった。
 実際、浜田は「バリバリやるぞ」と気概のあるタイプではなかったのでそれなりの評価しかしていない。「ブランドしか売りたくない」と関東行きを決めた彼に強いこだわりは感じたもののそれだけ、逆に言えば家電量販店に就職しておいて家電を売りたくないとはこれ如何に…彼にとってブランド部門はやり易いというかゆとりのある売り場だったのだろう。

「んー……ナンパ自慢は聞かされましたかね。角のラーメン屋さん、そこの店員さんに声掛けたとか何とか」
「へぇ」
「ご自由にって感じでしたけど、本命が居るのに良いのかなって思ったくらいですかね」
「え、本命が居るの⁉︎」
 時系列が不明だがそれは娘のことだろうか、嘉島かしまさんが知らなかっただけで復縁などしていたりするのだろうか。
 本来なら至極プライベートなことを彼に尋ねるのもおかしなことだ、しかし葉山くんは
「出身地の九州に、彼女を残して来てるそうですよ」
と僕の期待を打ち砕いて哀しげに口角を上げる。
「そ、そうなんだ」
「中高の同級生だそうで…レジの嬉野さんもお付き合いされてたんですよね?娘さん」
「あ、うん…知ってたんだ」
「浜田さんから…あの人、女性をモノにすることを武勇伝みたいに語るんですよ。斡旋あっせんされかけたんでキッパリ断りましたが」
「そうか」
 葉山くんもさっぱり塩顔のイケメンだが、意外や悪い女遊びはしない派らしい。それもそのはず、彼はこの3月に結婚したばかりの新婚さんだ。
「葉山くんは奥さん一筋?」
「もちろんですよ。ゆいさん以外の女性は…正直イモですよ、イモ……僕は早々と運命の人に出逢えたので、それ以上に手を広げることに意味を感じません」
「キッパリしてるねぇ」
 彼の奥さんもムラタ勤務、現在は西店にて働いている。
 僕は将来の管理職候補として葉山くんにも目を付けているのだが、奥さんと離れるのが嫌だそうでのらりくらりかわされていた。
 娘もイモ呼ばわりされたことが少々遺憾ではあるが、新たな情報を得たので良しとする。
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