4 / 23
調査・皇路本店
4
しおりを挟む「……嬉野さん、どうかされましたか?」
「ん、なんでも…あぁ、葉山くんか、お疲れ様」
「お疲れ様です」
宙を見つめる僕を不審に思い通りがかりに声を掛けたのは白物担当の葉山龍(25)で、入社3年目ながら豊富な知識と甘いマスクで客ウケの良い好青年である。
「葉山くん、黒物から白物に変わって…どう?」
「学生の時に派遣で白物を売ってたのでなんとかいけてます」
「うん、期待してるよ……ところでさ、浜田くんって居たじゃない、先月転勤した」
「はい、関東にでしたっけ」
そう、僕の娘を誑かした男の名は浜田、九州地区からの転勤で兵庫にやって来た若者だった。
彼の担当は時計やガスライターなどのいわゆるブランド雑貨で、近年縮小傾向にあるその部門から家電へ鞍替えすることを頑なに拒んでいた。皇路本店で家電を売るか、関東へ転勤してブランド担当になるか、背負う物も特に無い彼は少しも悩まず後者を選び飛び立って行った。
しかし立つ鳥跡を濁さずとはいかなかったようで、傷心の女性が少なくとも2人は生産されてしまった訳だ。
「うん、その……どんな人物だった?ここへの出入りは僕が担当したんだけど、残念ながら人柄まで知るには浅い関係だったから」
浜田がこの店に在籍したのは1年と少し、売り上げデータなどから仕事ぶりはある程度見えたがパーソナルな部分までは踏み込めなかった。
僕は次なる管理職候補者に注目して早くから声をかけたりするのだが、浜田所属のブランド部門にはフロア長というものが存在しなかったためにそこまで目をかけていなかった。
実際、浜田は「バリバリやるぞ」と気概のあるタイプではなかったのでそれなりの評価しかしていない。「ブランドしか売りたくない」と関東行きを決めた彼に強いこだわりは感じたもののそれだけ、逆に言えば家電量販店に就職しておいて家電を売りたくないとはこれ如何に…彼にとってブランド部門はやり易いというかゆとりのある売り場だったのだろう。
「んー……ナンパ自慢は聞かされましたかね。角のラーメン屋さん、そこの店員さんに声掛けたとか何とか」
「へぇ」
「ご自由にって感じでしたけど、本命が居るのに良いのかなって思ったくらいですかね」
「え、本命が居るの⁉︎」
時系列が不明だがそれは娘のことだろうか、嘉島さんが知らなかっただけで復縁などしていたりするのだろうか。
本来なら至極プライベートなことを彼に尋ねるのもおかしなことだ、しかし葉山くんは
「出身地の九州に、彼女を残して来てるそうですよ」
と僕の期待を打ち砕いて哀しげに口角を上げる。
「そ、そうなんだ」
「中高の同級生だそうで…レジの嬉野さんもお付き合いされてたんですよね?娘さん」
「あ、うん…知ってたんだ」
「浜田さんから…あの人、女性をモノにすることを武勇伝みたいに語るんですよ。斡旋されかけたんでキッパリ断りましたが」
「そうか」
葉山くんもさっぱり塩顔のイケメンだが、意外や悪い女遊びはしない派らしい。それもそのはず、彼はこの3月に結婚したばかりの新婚さんだ。
「葉山くんは奥さん一筋?」
「もちろんですよ。唯さん以外の女性は…正直イモですよ、イモ……僕は早々と運命の人に出逢えたので、それ以上に手を広げることに意味を感じません」
「キッパリしてるねぇ」
彼の奥さんもムラタ勤務、現在は西店にて働いている。
僕は将来の管理職候補として葉山くんにも目を付けているのだが、奥さんと離れるのが嫌だそうでのらりくらりかわされていた。
娘もイモ呼ばわりされたことが少々遺憾ではあるが、新たな情報を得たので良しとする。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる