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しおりを挟むそれからまた次の週の土曜日午後。
歩夢嬢はさらに表情が陰鬱になっていた。
半日働いて怠いところを来てやったのに、俺はまた下らないことに時間を割かねばならないのかと一瞬白目を剥く。
「…どうかされましたか?」
「あの…また今日午前中に彼氏とプチデートしてね、その、シたんだけど」
「セックスを」
「う、うん……やっぱり、なんか…」
「気持ち良くなかったと?」
やれやれお盛んなことだな。
荷物を降ろして湿気でベタつく首元を緩めれば、教科書もノートも用意してない歩夢嬢は
「うん…」
としょんぼり白い頸を見せて首をもたげる。
「(細いな)」
そこにも彼氏は口を添わしたのだろうか。
女になってから1週間だが歩夢嬢は妙に色艶が出て来たように思える。
しかしそれは非処女だと知っているからこその効果なのだろう。
未だ学習意欲の上がらない彼女には俺は『クソガキ』くらいの感情しか湧いていなかった。
「彼のこと、好きなんでしょう?」
「うん…でも気持ち良くないの…私がおかしいんだと思う」
「一概にそうとは言えませんよ。他の方と試してみたらどうですか」
「か、彼氏がいるのに他の人となんて…」
久々に釣り上がった眉毛が元に戻りその下の目がまん丸になる。
それから歩夢嬢は「あ、」と発してにんまり笑った。
「ねぇ橘、ちょっと私を誘惑してみてよ」
「は?してどうなるんですか」
まさかセックスする訳にも行くまい、16の好きでもない小娘に手を出して社会的に死ぬのは御免である。
歩夢嬢はずいと身を乗り出して座ったままぴっと気を付けして、
「抱き締めてみて、ドキドキするかどうか試したいの」
とさも名案とばかりに曇りのない眼で俺を見つめた。
「…彼氏に抱き締められてもドキドキするんなら比較にはなりませんよ」
「なんで?橘にハグされてもドキドキしないなら私の感度は正常ってことになるでしょ?彼氏のハグならドキドキするもの。好きな人にならドキドキする、彼のこと好きだって証明にならない?」
「いえ…貴女、相手によって冷静に態度を選べるほど男性慣れしてないでしょう」
年頃の男女ならば異性にハグされたり肌が密着してしまえば生理的に反応してしまうものだ。
特殊な好みや癖でもない限り大体の人間がそうだ。
歩夢嬢のことをガキと思っている俺だって、実際裸を見れば勃つだろうし心拍数だって上がるはず。
そして生殖機能のある雌に対してのその反応は生物として正常なもので責められる謂れはない。
だから彼女だって、よほど俺のことが嫌いでない限りはドキドキしてしまうのではなかろうか。
こうして恋愛話をしてくれるくらいだから嫌われている実感も無いし。
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