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 しかし恋に恋する年頃なのだろう彼女はセックスに夢を見過ぎである。

 歩夢嬢は今さら恥ずかしさが込み上がったのかぐじぐじと鼻を鳴らし始め、本格的に涙の雫がスカートを濡らす。

「橘、私…早まっちゃった、かなァ?」

「いえ、勢いも大事ですよ。もう結婚できる年齢ですし、経験を積んでおくのも悪いことではないかと」

「回数、重ねれば、気持ち良く…なるのかなァ?」

「それはどうでしょうね…お互いが快感を得るためにしっかり話し合うのがよろしいんじゃないですか?」

「ゔ、んっ…ぞう、ずるっ…びぇ」


 結ばれたというのにこんなに哀しげなのはおかしいことだ。

 散らした花を惜しむ訳ではないと言うが心に渦巻く虚しさが示すのは喪失感で決まりだろう。

 若いんだから何度もトライして失敗すれば良い。

 まさか行き過ぎた少女漫画みたいに『繋がる度に快感度右肩上がりで毎回シャングリラが見える』描写を信じている訳ではあるまい。

「落ち着いて下さい」

「ふぅ……エッチって気持ち良いんだよね?感じないなんて私がおかしいのかな⁉︎」

「だから……貴女、何を参考にされてます?」

「え、漫画とかドラマとか」

 案の定か馬鹿だなぁ、

「それは脚色ですよ、私が以前見た資料ではセックス時にオーガズムを感じる女性は全体の6割ほどです。さらに膣でそうなるのは10パーセントほどにしか満たないそうですよ。つまりは『絶頂』なんて全員に起こる事象ではないということです」

と告げてやれば歩夢嬢は口をむずむずさせて微かに口角が上がる。


 眉唾ものだが確か医学博士とかが調査したグラフを見たような気がするのだ。

 ちなみに差分の50パーセントの女性は外性器への刺激で達した経験者の割合だ。

「…そうなの?」

「幻想ですよ、そう易々と昇天できる訳がないでしょう。特別感じやすい人もいるでしょうが…慣れとかではないですかね、回数を重ねるうちに変わると思いますよ」

「そっか……橘、さすが大人ね、ありがとう」

「いえいえ」



 男の立場からするとセックスなんて簡単だ。

 興奮材料があれば勃つし穴があればそこに挿れるだけだ。

 好みの女なら気分が盛り上がるし、別に好きでなくてもそれなりに気持ち良い。

 最低限の快感は確保されていてそこにどれだけ上乗せ出来るかが『気持ち』の部分なんだろう、技術云々とはまた違う方向の話だ。


 俺は先ほどつい「上手い下手関係なく好きな相手となら気持ち良いのではないでしょうか」と言ってしまいそうになったが、堪えて正解だった。

 「そんなに好きではない」と自覚がある歩夢嬢の葛藤と後悔をまた掘り返してしまいかねないし…これ以上俺に彼女をなだめる気が無いからだ。



つづく
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