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番外編・1

お手伝いさんは見てた・4

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 私はすぐに同僚たちと情報を共有して会議を行った。

「どうする?報告する?」

「…でもさ、本人たちが好き合ってるんなら止められなくない?」

「確かに。お嬢さま、最近艶っぽくてお綺麗になられたと思ってたんだよね」

「分かる~」

「……、……、………」


 結局私たちの出した結論はこう、ずばり『黙認する』だ。

 勉学にもお稽古にもやる気を見せなかった歩夢さまが今の状態になったのは他でもない橘さんの存在があってこそだ。

 その原動力が指導力だろうが恋の力だろうがどちらでも良かった。

 この頃歩夢さまは高校時代の彼氏とまだ続いているらしかったが、橘さんとそういうことになって以来の方が明らかに肌艶も良く顔色が明るくなった。

 二股交際は不義理だと思うが、楽しそうにされている歩夢さまを見るのが私たちも嬉しかったし喜ばしかったのだ。


「花嫁修行だったりして」

「殿方を悦ばせる的な?いつの時代よ」

「でも気持ち良いと綺麗になるわよね」

「そりゃそれが一番よ」

 下世話な話は他に漏れぬよう細心の注意を払い、それでも二人の秘密の逢瀬は私たちの格好の娯楽となっていった。

 歩夢さまはゆくゆくはお婿さんを貰い家を継ぐので、その相手となる男性は少しでも良い人の方が私たちも助かる。

 橘さんの本性はよく分からないけれど、歩夢さまが幸せで、かつ会社が傾かないようサポート力のある人なら万々歳だ。

 この関係がいつまで続くかも分からない。

 けれどできれば旦那さまたちにはバレない方が得策だろう。

 彼氏がいながら家庭教師をたぶらかしたなんて醜聞は将来の足枷になるだろうし、それで婚期を逃すなんてこともあってはならない。



 だから私たちは今日も、歩夢さまの部屋へと続く廊下を張り人払いをしつつ仕事をする。

 他の者に二人の情事が見つからぬよう、陰ながら助けてあげているのだ。

「もう終わった?」

「まだね…今日も凄いわ、お嬢さまの声が廊下にまでバッチリよ」

「振動もするしねぇ…あれで隠し切れてるって思ってるんだから…橘さんも可愛いもんよね」

「本当にねぇ……そろそろ奥さまもお帰りになるわね、ガードしなきゃ」


 私たちは少しの物音なら見過ごすが、明らかに階下に響く声があった時には他の者の目もあるため注意に向かう。

 「聞こえてるわよ、これ以上鳴かせるとバレるわよ」と牽制の意味でもある。

 いつか二人が堂々とカップルになる日が来れば良いわね、これが二階堂家使用人歩夢さま係の総意である。



つづく
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