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「…橘、はっきりしておきたいの。貴方は私のこと、どう思ってるの?」

部屋に入ると、歩夢嬢は俺を扉に貼り付けてずいと迫る。

「あの」

「昨日のことも、帰りの車での話も…何なの?エッチ中のノリでも私のこと好きって言いたくないのよね。なのに『可愛らしい』って思わせぶりなこと言うの、何なの?手放したくないとか、『情』がどうとか。そうやって、私がモテてるように勘違いさせて、反応を面白がってるの?嫌々抱かされたことの復讐?何なの、もう…」

「歩夢さま」

「嫌いなら、嫌いって…言って、よぉ…」

 大粒の涙が瞳から溢れて、ぱたぱたと俺の背広に落ちる。

 ここらでようやく、俺の中に確固たる自信が生まれた。

 歩夢嬢は俺のことが好きなのだ、と。

「歩夢さま、すみません、貴女は…私のことを」

「…好きよ、好きに決まってるじゃない」

「恋愛対象として、ですか」

「他に何があるってのよ!」

「家族として、とか」

「家族とエッチなんかしないわよ、ばか!」


 扉越しに廊下にも怒鳴り声が漏れたのだろう、使用人さんのスリッパの足音が階段の下辺りで止まる。

「歩夢さま、静かに」

 数秒すると階段を上がる音がして、ノックに続き北埜さんの「どうかされましたか?」の声がした。

「……」

 応えねばなるまい、俺は扉を開けて

「お見合いで歩夢さまを守りきれなかった私が叱責されております。八つ当たりみたいなものですので、気になさらないで下さい」

と困り顔で笑っておいた。

「橘!何言ってんのよ!」

「ほらほら、お静かに…すみません北埜さん…さっき吐き出したのによほど溜まっているみたいで」

「反省会もほどほどにね、橘さん」

「はい、失礼します」

 これで誤魔化せたろうか、喧嘩というか歩夢嬢がキーキー言っているだけなので信憑性は高いだろう。

 台所での怒りっぷりを見てもらった後だけに、唐突なヒステリーではないと信じてもらえるだろう。


 北埜さんの足音が1階へ降りて行くのを確認して、俺はベッドで泣きじゃくる歩夢嬢の隣へ腰掛けた。

「歩夢さま、」

「何よ、もう、知らない、橘なんか…好きにならなきゃ良かった」

「私のことが、お好きなんですね」

「そぉよ、悪い⁉︎エッチして、知らないこと沢山教えてもらって、褒めてもらえたら嬉しくて…分かんないわよ、恋なのか、あんたが言う『情』なのか、」

「でもお見合いはしたんですね」

「好き」の言質げんちを取った俺は、果たしてどのくらいこの娘が俺に没頭しているのか知りたくなった。

 どのくらいの狼藉ろうぜきが許されるのか、どれくらい付け上がれば捨てられるのか。

 決して身分以外は下手になってやるものか。

 だって惚れたら負けなんだ、俺だって彼女に惚れているのだろうが…口にしたら歯止めが効かなくなる。
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