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 二階堂邸へと帰る車内、歩夢嬢はやけに明るく美術館の様子を教えてくれた。

 俺たちだって同じものを観たのだから概要は分かっているのだが、彼女たちは作品の細かな解説もしっかり読み込んでいたらしい。


「……、ですってよ、橘」

「そうですか…実りがあって良かったですね」

「何よ、橘たちはさっさと回っちゃって…城廻さんと何を話してたの?」

「んー……ヨコハマの話ですとか…」

 歩夢嬢は「へぇ~」と気の無い返しをくれて、どっしり背もたれへ倒れた。

 疲れたのだろう、そして共闘が予想より早く終わることに焦りも感じているのかもしれない。

 期間は開くだろうがまた見合いの話が来るのだろう、彼女と俺はそれを迎え打たねばならない。

 いや、歩夢嬢は今回の見合いでは最初から短期決戦のつもりだった。

 乗り気でない雰囲気を醸して振られるように動いて、相手が同じ境遇でなければ即日で破談になっていた案件だ。

「(俺が、決めなきゃいけないんだな)」

 だらだらと甘い関係に浸って、「いずれいずれ」なんて本気の覚悟を決めかねていた。

 歩夢嬢から「今日お父さまに言うわよ」なんて先導してくれるのを待っていた。

 受身体質は変わらないものなんだな、男性がリードするなんて時代錯誤と思いつつも彼女の希望がそれならば汲み取らねばならなかったのだ。


「…歩夢さま、帰宅後…お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

「なぁに?悪いけどエッチはできないわよ」

「月のものでしょう、それは知ってます。ではなくて…社長に、話をしたいのですが…あッ」

 どすんと運転席にしがみ付いた歩夢嬢の顔は「待ってました」と言わんばかりで、

「いきなりねぇ、橘!」

と笑う目元はちっとも困ってなんかいやしない。

「すみません、遅くなりましたが、私からお話を通さねばなりませんでした。臆病者で申し訳ございません」

「良いのよ、橘…嬉しい、嬉しいわ」

「とりあえずきちんと座って下さい」

 話の結果いかんでは、俺たちは職も家も失うかもしれない。

 地位も権威も、地元での再就職さえ叶わないかもしれない。

 まぁニカイドー社長にそんな力があっても彼がそれを行使するかどうかは不明だが…楽しいばかりの未来とは限らない。

「歩夢さま、社長に勘当されてもよろしいのですか?」

「…大丈夫よ。私たち若いんだし、なんとかなるわよ」


 肝の据わった良い女だな、そう感心したのも束の間、

「ところで橘、何に感動するの?」

と聞き返すもんだから俺はため息を隠せなかった。
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