仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

茜琉ぴーたん

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 廊下の先のトイレへと逃げ込んだら、そこはほぼ歩夢嬢の好みでコーディネートされた空間になっていた。派手なレイとハイビスカスが壁にかけられて、彼女の部屋と同じフレグランスがぷんぷん香る。
「…あ、くそっ…」
 香りで勃つなんてそんなに俺は繊細じゃないはずだ。けれど鼻から口から彼女と同じ香りが体内に入れば、だくだくとまた心臓が元気になってますます下が鋭くなる。
「…どれだ…」
俺はモノを便器に構えたまま、くんくんと香りの出どころを探る。
 床にも棚にも芳香剤は置かれていないから、まんま香水か何かをどこかに吹き付けてあるのだろう。
「この辺全部か?…これで良いや…」
俺は画鋲に掛けられたピンクのレイをひとつ手に取り、くしゃくしゃと丸めて思い切り息を吸い込んだ。
「……あ、」
せ返るほど鼻腔に広がる歩夢嬢と同じ匂い、ついさっき顔で味わった柔らかい胸の感触が蘇る。
 毎週通って体が覚えたこの匂い…モノを支える手が無意識に上下した。

「(クッソ…あんなガキで……あー…クソ、クソ……あ、あー…)」
 特別な感情なんかありゃしないんだ、ただ若くて並以上に可愛いだけの馬鹿女だ。
 しかしスーハーとレイを嗅いで雇い主の自宅トイレで自慰行為をする男とどっちが馬鹿だろうか。そりゃ俺の方が馬鹿で愚かで変態に決まってる。
 そんな自虐も込みで余計に昂まるんだから口元がぐにゃぐにゃ緩んでしまう。俺がこんなことをしてると知らずに問題を解いている歩夢嬢を想像しても背徳感で脳が蕩けそうになる。

「(あー、出る、出る………ん、んー?)」
しかしもう少しで達しそうな時なのにくんくんと嗅いでいると妙な違和感、この香りは歩夢嬢の部屋と同じものだが彼女の体の匂いとは少し異なるように思えた。
 暑い日だから汗の匂いもあっただろうし石鹸せっけんやシャンプーの匂いもあるだろう、何よりここはトイレだから洗剤や水臭さもあろう。しかし違う、洗濯洗剤でも柔軟剤の香りでもない。
 ハグされた瞬間に微動だにしないよう神経を研ぎ澄ましていたからしっかり記憶しているんだ。同じようで違うあの香り。
「……あー、高梁たかはしくんのかぁ…」
フローラルな香りに差し込まれる一服の清涼感、あれはおそらく高梁くんの制汗剤か何かの香りだ。
 彼は午前中に歩夢嬢を抱いた、彼の体から爽やかな香りが歩夢嬢の体に移って俺の鼻に届いたのだ。

「へぇ、」
 何故だろう、性的興奮とは異なるゾクゾクとしたたかぶりを下半身に感じた。
 高梁くんの顔は前に見せてもらったプリントシールのものしか知らない。それすらもぼんやりとおぼろげだし上書きするつもりもないが、脳裏に彼の溌剌はつらつとした笑顔がよぎる。
 このまま2人が順調に交際を続ければ、いずれ結婚して彼は二階堂家に婿として迎えられるだろう線が濃厚だ。直系ではないから社長にはならないだろうが、後継者の歩夢嬢の配偶者として取締役くらいには抜擢されるかもしれない。
 あぁ悔しいなぁ、跡取り娘と結婚するだけで逆玉なんて。なら俺がその座に就くには彼を排除すれば良いのかな、不穏な考えがよぎる。

 俺は今の会社でトップを取りたいなんて上昇志向があって入社した訳じゃない。あれば親族経営の会社なんて選んでいない。本社が近くで給与も安定していて地元球団にも顔が利くから選んだ訳で、分不相応な儲けなんか望んじゃいない。
 けれどこの込み上がるモヤモヤはどうしたことか。オンナ歩夢嬢と縁続きになっただけで俺より上に立つ、高梁くんのことを想像したらカァッと腹の底が熱くなった。
 洋式便器を覗けば不細工に笑む俺の顔、企みと興奮で歪んでいて見ていられない。
 そこに無理矢理高梁くんを投影して彼の顔を目掛けるつもりで自身をしごく。まるで宣戦布告、彼はそんなつもり毛頭ないだろうが俺はどうしてか奮い立ってしまった。

 そして1分後、
「…んっ……あー…」
便座を上げて水面に狙いを定めて白濁をぱたぱた吐き捨てる。
 ぷかぷか浮いた俺の子種はトイレットペーパーが被さるとなんとなくのシルエットだけ残して排水されていった。
「はー…はー…ふー………何やってんだ…俺は…」
 冷静な頭で考えたら俺の行為は明らかに変態的だった。次期経営者に対して何たる不敬行動であろうか。
 しかし高梁くんへの敵対心はぶすぶすとくすぶったままだ。直接会ったこともないのに完全に嫌いになってしまっている。
「……アホくさ…」
 好きでもない女に男の影を感じたからって何を張り合ってるんだ。
 イく瞬間に力を込め過ぎたからレイの花が数枚折れ曲がってしまった。黙っておこう、レイを元あった場所に掛けてついでに用も足して、さらに十数秒数えてからトイレを出る。
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