あなたでお腹いっぱいです…能面イケメンは私のコレがお好きみたい

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
5 / 38
2…ニヤけちゃう

5

しおりを挟む

 翌日。
「ん…?」
 売り場にて待機していると、掃除機コーナーの物陰から黒い頭が覗いてつつつーと横にスライドして行くのが見えた。なんだか見覚えのある髪の毛だ。
 お客さんも居ないのでじぃと目で追えば、時たま止まりながらも棚の端の方へと動いて行く。
 気になったのでメーカー販売員さんに断りを入れて持ち場を離れた。あれはオーサキのさかえさんではなかろうか。そんな気持ちもあったし単にお客さんだとしても何か手助けになれればと思い掃除機コーナーへと遠征してみた。
「(あれ、さっきの黒髪の人居ない……誰か…栄さんかと思ったんだけどな…)」
 入れ違いになったのか人影は消えていて、しかし他のお客さんに声を掛けられたのでこれ幸いと接客に入る。



「こちら、お会計お願いします!」
 機種の違いを説明してセールストークを繰り出して無事成約、棚下の在庫をお渡しして持ち帰りレジまでご案内した。
「ありがとうございまーす!」
 大物だろうが小物だろうが自力で商品を販売できたら嬉しいものだ。ちょっとでも会社と人様のお役に立てたと達成感に浸る。
 インターネットでもカタログでも通信販売で好きな物が買えるこの時代、それでも現物を見たりスタッフからの説明を頼みにご来店されるお客さんを我々は大切にせねばならない。結局のところ便利な世の中でも人との関わりが求められている。この先どれだけ販売ツールが発達してもこうした実店舗は失くなりはしないだろうと…いや、失くならないで欲しいと切に思う。
「(これもひとつの承認欲求よ…よし、在庫補充しとこ)」
 棚下が空になったので時間があるうちにやっておこう、足りない商品を記憶しつつ台車を押してバックヤードへと向かえば、
「あ」
やはり見覚えのある顔が目の前の通路を横切って配送カウンターの方へと歩いて行った。

 横からの立ち姿を見るのは初めてだが案外猫背気味というか巻き肩なのだな。身長はおそらく180センチ無さそうだが私を見下ろす時はだいぶん大柄に見えた。そして表情はといえばあの貼り付いた能面スマイルで、これは間違いない、オーサキの栄さんである。
「(競合調査かな…でもあっちはメインレジ…あ、宇陀川うだがわ)」
 棚の陰から盗み見れば突き当たりのカウンターには栄さんにひらひら手を振る宇陀川の姿があり、合流した2人は談笑を始めた。
 あの2人は何かしらの知り合い同士だしそれはどうでも良い。けれど栄さんは最初に会った時のような情を削ぎ落とした笑顔…とても心底会話を楽しんでいるようには見えない。
 栄さんは下はスラックスで上は私服らしきダウンの防寒着、競合調査に訪れたところを宇陀川が捕まえたという感じだろうか。
「(先輩的な人ならペコペコしなきゃいけないんだろうな…めっちゃ作り笑いだ…)」
 いずれ機会があればどんな仲か尋ねてみても良いだろう。
 今はとりあえず自分の仕事を優先しようとバックヤードから在庫倉庫へと台車を走らせる。

 それから掃除機の在庫を探して積むこと3分ほど、
「…これと、これと…ふぅ…」
バックヤードの機械で持ち手を引っ掛けるためのバンドを回し付けて、早く売り場に戻らねばと気がはやる。
 もう栄さんは宇陀川から解放されてオーサキへ帰れただろうか。もしかして奴から意地悪などされてはいないだろうか。
 共に業務時間内なのだから立ち話もほどほどで切り上げているだろうが、調査に引っ付いて回られたりしていないだろうか。そうなればスケープゴートになってでも栄さんを逃してあげたい。
 ライバル店のスタッフにここまで気を揉む必要は無いし気に掛ける暇なんて無いのだ。なのにひとつ屋根の下にあの人が居ると思うとそわそわして気掛かりで仕方ない。
 自分の上司よりライバル店員の肩を持つなんておかしなこと、けれど栄さんの仮面を剥がした素の笑顔を見てしまっただけに少しばかり心の距離が近くなったと思ってしまっている。というか心どころか至近距離で見つめ合った仲だ。
 自分はなんだか栄さんの側に立って物事を考えている。宇陀川が気に入らないにしても、この心境は勘違い女みたいでみっともないか。
「(いや、宇陀川から助けたいだけ…)」

 バックヤードから台車を押して売り場に出ればお客さんも居らずメーカー販売員さんもついつい欠伸あくび、目が合ったので会釈えしゃくで同意を示して掃除機コーナーへと荷物を運ぶ。
 通路の先のメインレジにはもう栄さんも宇陀川の姿も無くて、「なんだ、帰っちゃったのか」と妙にガッカリする自分に「なんで?」とツッコミを入れた。

 また来週だ、任命されればまたオーサキへ行って彼に会える。
 別に何をする訳でもない。ただエンカウントしたら挨拶くらいして今日のことを尋ねたりしてみたいだけ、それだけだ。敵対心など持っておらず友好関係にあることを示したい。
 それは何故かなんて言われたら…よく分からないけれども。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...