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4…くだけた声

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「(栄さんも…大きい胸がお好きだろうか…)」

愛さえあれば何でも許せるだろうが興奮させる力が足りないというのは酷くプライドが傷付くし第一関門でつまずかせて申し訳ないといった気にもなる。

 その後の合体が最上級の出来なら良いが私は自分をそこまでの名器だとも思えない。

 そして視覚で分かるぶん女性は損をしている気もする…男性器は平常時ならその大きさや形は露見しないのだから。

 まぁこれで変な男をふるいに掛けられるなら良いのかな、なんなら「小さい胸が超絶好きだ!」という男性に上手く見つけてもらえたら儲けものだ。


「(…昼間からアホなこと考えちゃった…書き起こししよ)」

 私は自店へ帰るといつもの通りイヤホンを着けて、自分の間抜けな声と微かに聞こえる栄さんのおどけた声に耳を澄ませた。





 翌週も調査をして栄さんとささやかな関わりを持って自店舗へと帰る、まるで通い妻みたいな触れ合いでも私の心は満たされて幸福感が募っていく。

 彼の態度は最初こそ固いものの帰る頃には毒気を抜かれたように柔らかくなっていて、途中で何かあっただろうかと邪推するくらいには情緒が安定していないように見えた。


「(もしかして闇でも抱えてんのかな…)」

「おい小動、データ上げたか?」

昼を終えて売り場へ降りた私に、メインカウンターより遠征して来た宇陀川が気安く声を掛ける。

 この人は白物売り場の全権を握っているような口振りをするが責任者ではない。

 あくまでうちのフロア長が不在の間のお守り役である。

 なので困ってもいつの間にか逃げているし問題案件は翌日に持ち越してなぁなぁにする。

 都合次第で重心をあちらこちらに移す日和見ひよりみな管理職だ。


「はい、アップしてます!」

「ん。今日は栄は居たか?」

「…はい、いらっしゃいましたけど」

「しばらく会ってねぇな…何色のネクタイしてた?」

「へ、青色、でしたかね…」

「オーケー、ご苦労さん」

これは私の記憶力を試しているのだろうか、返答に満足した宇陀川はニタニタとまたカウンターへ戻って行った。


 親しいなら自分から会いに行けば良いものを、先日は栄さんはうちムラタに来ていたし会話をしていたようだし、関係は悪くないように思えるのだが。

 もしや複雑な事情が絡んだ関係なのか、しかして宇陀川は女好きで有名だし男性には手を出しそうにない。

「(いや、栄さんのすっきり美貌フェイスなら男性も虜にできるのでは……無いか、)」


 ともあれ二人は何か意識し合っているのだな、今の私が個人の交友関係に口を出すのは得策ではあるまいし宇陀川から睨まれるのも御免だ。

 尋ねるならば栄さん側からにしたい、怠そうな背中を見送ってから配置に着いた。



つづく
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