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3…舐める視線
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しおりを挟む「出ようか」
トレイを返してパン屋の出口まで連なって歩き、栄さんは本屋に用があったのかと思いきや私と同じく出口へと足先を向ける。
「…栄さん、本屋は良いんですか?」
「あー、良いの良いの。間に合ったから」
「……?」
私との食事で本屋への用が無くなるとはどういうことか。
しかし私的なことだからもうこれ以上は詮索しないことにした。
「寒いね、美羽ちゃん車は?」
「ムラタに置いたままです。では…失礼します」
「ん…ならおつかれ。また…来週来る?」
「あー…たぶん、頼まれれば…私が」
「そう…楽しみに待ってるよ」
「……へァ、」
甘い、これは甘い…ドラマじゃあるまいし若干クサい、けれどそれが良い。
もしドラマなら初回15分拡大スペシャルのラストくらいかしら、意識し始めて恋に落ちる瞬間、そして主題歌とエンドロールで次回予告みたいなところだ。
これは良い感じと受け取って良いのだろうか。
カァと体が熱くなって来たので
「失礼します!」
と歩道へ出た。
「(社交辞令でも真に受けちゃうぞ…私悪くないよね…)」
横断歩道を渡って自店の敷地へ戻る、従業員駐車場まで着いてやっと「かー」と声にならない声が漏れる。
急展開だけど続きは来週まで持ち越しだ。
こんなに近くで働いているというのにそんな頻度でしか顔を合わせる機会が無いなんてドラマチックでシチュエーションに酔ってしまう。
でもこの先の展開次第では大した理由が無くとも落ち合ってデートする仲になれるかも、渇望までしないけれど久々のロマンスに心身が疼いた。
もっとお話をして栄さんのことを知りたい、まだ少ししか彼の情報を持っていない。
「彼女はいないってことで良いんだろうか…いるのに調子良いこと言う人もいるもんな…でもそんな軽い男には見えないんだよな…でも『美羽ちゃん』って可愛いかよ…でも出逢って数回でアプローチみたいなことして来るのは怪しいな…詐欺かな…でも私に一目惚れって線も無くは無いよな…でもなー…」
車に乗り込めば独り言が捗って、目の前のムラタと道路向こうのオーサキの看板の照明が共に消された頃、私はやっと車を出して家へと帰った。
つづく
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