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10…やべぇ、食いたい
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しおりを挟む「(…いじらしい人…)」
「美羽ちゃん、やべぇ、食いたい」
「え、あの、マジ食いします?」
「しない、ようにするけどするかも、噛むかも、」
「えぇえ」
お預けを食らった肉食獣みたいにせっかくの美麗な顔面を歪ませて、歯を食い縛り荒く息する彼はこれまでの印象を覆すほどにワイルドでエロティックだ。
紳士も好きだけど悪漢も嫌いではないんです、あくまでギャップの範疇ならちょっとしたスパイスもしくは関係を盛り上げるエッセンスとして有効に働くだろう。
「ごめん、盛り上がると噛みたくなんの…抑えるから…美羽ちゃん、俺の家か、ホテルか、お願い」
「あ、どっちでも、」
「美羽ちゃん、声出るタイプ?」
「どう、かな…出ちゃう…かも…」
「じゃあホテルにしよ、シートベルトして、」
口元を手で拭った雅樹さんはキリッと表情を正して運転席へと移動して、後部座席に転がった私は「え、あ、」とエンジンを掛ける間に座り直す。
そして「出るよ」の号砲には間に合わず、あたふたしながらシートベルトを引いて差し込み口を探した。
「美羽ちゃん、好きだよ、ごめん、それだけはマジだから」
「それは、分かりますけど」
「引かれたくなかったんだよ、大人な栄さんでいたかったから」
「ギャップ、は大好物ですが、豹変は恐いですよ、」
「叩いたりはしない。それは約束する」
叩くのも噛むのも同じくらい恐いんですけど、ラブホテルって絆創膏とか頼めばくれるのかな。
ぐるぐる考えていると車は郊外の川沿いの建物の敷地へと乗り込んで行く。
そこは初めて見るホテルだった。
評判の良い所なのかな、部屋ごとの案内表示をぼうっと眺めていると雅樹さんはサッと降りてナンバープレートを目隠し板で覆った。
「降りて、」
「は、い」
「怯えないで、ごめん、痛いことはしないから」
「紳士…」
これは話半分で聞いておこう。
平常時がどうであれセックス中は男も女も頭が沸き理性を失くして思いがけない行動をしてしまうものだ。
かく言う私も元カレとする時にはいわゆる『だいしゅきホールド』なんかしちゃってあへあへ吠えたものだが…喜ぶからするのであって、後で冷静に「なんだ、あれ」と真顔になったりしていた。
雅樹さんの腕前はさておき多少は演技もして盛り上げる所存、肉を噛み千切られるほど酷いことでなければ上手に恥ずかしがって見せようと思う。
つづく
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