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エピローグ…君のお口が大好きだ
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しおりを挟む俺は年齢を差し引いても美羽ちゃんより上に立ちたがるきらいがある。
虐げたいのではないんだ、でも言うことを聞かせたい。
仕方なくでも従わせて、悪態をつかれても逃げさせず彼女が俺に心酔していることを確認したい。
これは俺が宇陀川さんから学んだことなのかな、それとも持って生まれた性分なのか。
幸いというか部下にはそんな振る舞いはしていないけれど…これが表に出始めたら社会人どころか人間として駄目だと分かってはいる。
「とりあえず、その…分担しませんか?お風呂掃除は最後に使った人がする、とか」
「オーケー。それはほぼ俺になるだろうから俺の役割にしよう。その流れで予約洗濯もセットしよう」
「あ、それ助かります!」
「(…笑った)」
ちょっとした気遣いと話し合いで妻を楽にしてあげられるんだな、俺は最新鋭の家電を揃えることで妻孝行したつもりになっていた。
でも当たり前に俺がやれば良かったんだ。
もちろん使い方もマスターしているし省エネ性能や洗剤投入口の掃除の仕方だって習得している。
それをなぜ実生活で発揮しなかったのか昨日までの俺に喝を入れてやりたいくらいだ。
「翌朝干して、仕事に行って、帰って取り込んで、料理は私がしますから」
「うん…ごめん、本当…奥さんがするもんだと思い込んでた」
「世の中、ほとんどそうだと思いますよ?でも得手不得手がありますからね、得意な方が進んでやりましょう」
「無理させてごめんね」
「いいえ、まぁ洗濯槽の底に手が届きにくいとか物干し竿に届かないとか、そんなレベルですよ」
「じゃあ干すのも俺がしようか」
朝仕掛けて夜に干すのならちょうど良いかも、俺的にはナイスアイデアだと思ったのだが
「いいえ、雅樹さんはセンスが…いえ、私がやります」
と却下された。
「え?なんで?」
「ハンガーへの掛け方とか、向きとか、風の通りを考えた干し方とか…雅樹さんは下手くそです」
「…不得手だね」
「できることをやっていきましょう……ふふ、言えてスッキリしました」
やっと彼女は食後のほっこりした顔になって、ほんのり脂の浮いたお茶を口へ運ぶ。
「(…良いねぇ)」
茶碗に接地する間際のとんがった唇が好きだ。
水鳥みたいにぱくぱく動いているのも可愛くて好きだ。
思えば初めて目にした時から美羽ちゃんは食べ姿が魅力的で俺を楽しませてくれていた。
焦って手出しをしようとは思わなかったけどそれがベストだったらしい。
聞けばその当時は美羽ちゃんには彼氏がいたと言うのだから。
しばらく忘れていて運良く再会できて本当にラッキー、夢に出てくるくらい惹かれていたらすぐに会いに行っただろうけど…性格を知って徐々に仲を深めていけた現状のルートが最善だったのは確かだろう。
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