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エピローグ…君のお口が大好きだ

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美羽みわちゃん、ぼちぼち子作りしない?」

入籍してはや1年。

 式は終わったばかりだが俺はそんな提案を妻にしてみた。

 シラスふりかけをおかずにもりもり白米を頬張っていた美羽ちゃんは途端目を逸らして、ぽんとその頬が赤らむ。

 彼女はメインの夕飯を食べ終えてなお腹が満たされてなかったためにおかわりを楽しんでいた。

 水を差して悪いがその反応も可愛かった。


「え、は、早くないですか?」

「そうかな。仕事も落ち着いたしさ、式もしたし…新婚のラブラブも味わったし…そろそろじゃない?若いうちに産んどいた方が良いよ」

「んー…計画的に…ですね…」

彼女は意外と頑固なところがあって、グイグイ押しても動かないことがある。

 彼女に言わせれば俺がステレオタイプな亭主関白を振りかざし過ぎだから、逐一立ち止まり呑めない要求にはハッキリ「NO」と応えているだけらしいのだが。

 残念だが俺は言われるまでそんな自覚が無かった。

 そういえば家事は美羽ちゃんがするものだと思っていたし、女性は皆料理が得意なものだと信じていた。

 結婚すれば妻側が姓を変えて夫の仕事のサポートをするものだとばかり考えていた。

 俺の両親がそうだったという訳ではなくて、ただそんなものだとナチュラルに思い込んでいただけだ。


「…そう…か…」

 はて俺はまたナチュラルに思い込みで発言していたのだろうか。

 結婚すれば子を持ち家を建てるものだと想定していたのだが…美羽ちゃんは違うのかもしれない。

「あ、いずれ欲しいんですけど、その、まだ早いかなって」

「自然に任せる?」

「そうですね、んー…まだ、かな…」

美羽ちゃんは米粒を綺麗に摘んで食べ切り、箸を置いて茶碗にお茶を注ぐ。

 もぐもぐと口を動かして斜め上を見つめる、赤面は治まり何か思い出しているか考えているのだろうどこかその表情は浮かない。

「何か、予定とかある?」

「…予定、というのは無いです」

「不妊の恐れとか?」

「それは調べなきゃ分かりませんけど…もう少しね、二人の暮らしを確立してからの方が良いかなって」

「……あー、そうか」

 俺も彼女もフルタイム勤務なのに食事の準備や片付けは美羽ちゃんに頼りっきり、言い訳させて貰えば単純に拘束時間の長い俺では手が回らないのだ。

 おまけに少食を通り越して食に関心の薄い俺では食事の支度に身が入らなくて、カレーなんかでも箱の裏の作り方を読んだだけで腹いっぱいになってしまい作る気が失せてしまう。

 そして途中から「やりますよ」と美羽ちゃんが申し出てくれるのを待つ形がほとんどで…実際彼女がやってくれた方が美味いし手際も良いしで任せっきりだった。

「このままだと、あんまり…ね、雅樹まさきさんも頑張ってくれてるのは分かるんですけど、ワンオペ育児とか辛そうなので…もう少し分担とか身に付いてからの方が助かります」

「ごめん…」

「いえ、頼んだことはして下さるし、力仕事とかは助かってて…でももっと協力していけたら良いかなって」

「実際…美羽ちゃんの方が家事できるし甘えてたな…ごめん、確かにこれじゃ子供なんて負担が多すぎるよな」


 ただでさえ小柄な美羽ちゃんの腹を大きくして行動に制限をかけるのだ。

 生まれてからも俺がお荷物になってはハッピーな育児生活はできないだろう。

 そして彼女は不満を口に出せず溜め込んで自滅してしまう。
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