14 / 35
Void and vainness
14
しおりを挟む慌ただしく年末は過ぎて年明け、遂に古湊さんとの旅行日。体調は万全、生理予測もズレは無さそうだし生理前で妙にムラムラと気分が高まっている。
交際を開始した私たちだけどその生活ぶりはあまり変わらなくて、お互い仕事をしては撮影で会ってディナーをして帰宅する、あるいは休日に待ち合わせてお出掛けするというデートを重ねていた。
変わったことがあるとすれば1つ、これまでオフィスからひとりで来ていた古湊さんに副社長の女性が同行してくるようになったのだ。
スタッフさんは気軽に挨拶をしているし私が出しゃばって尋ねるのもおかしいと思い名前などは知らないのだけど、私は何となく…彼女が『エミルダ』さんなのではないかと予想している。なんせ私がセットに入っている時にスカートスーツの彼女はカメラの後ろで私と鏡合わせで同じポージングをして見せるのだ。ヒールが無くても170センチありそうな彼女のそれは、私への宣戦布告と見て良いのだろうと思う。
そしてスタッフさんたちの腫れ物に触るような態度も気になる。どことなく私と接触しないよう気を配ってくれている気がした。
気にはなるけど古湊さんの反応が怖くて聞けやしない…旅行日の今日の今日まで私は僅かな不信感を持って過ごしている。
「(そろそろ時間……お?)」
「ラムさん、お待たせ」
「あ、車…変えたんですか」
待ち合わせ場所に古湊さんが乗り付けたのは以前の大きなセダンではなく小型普通車だった。これも輸入車のようだがあまりにかけ離れているので私はぽかんと立ち尽くす。
「うん、前にラムさんが『可愛い』って言ってたのと同じやつ」
「え、それだけで決めちゃったんですか⁉︎」
「それだけじゃないけど…とりあえず乗って」
「はぁ、お邪魔します…」
鼻をつくのは新品の自動車独特の内装の匂い、見た目は小さいけれど私には充分な広さのある助手席に腰掛ける。
「出発進行ー……いい車だよね、小回り利くし軽よりは大きくて広い」
「そう、ですね。乗りやすそう」
「足も届くし…あんまり気にしないで、本当に買い替え時期だったんだ。ラムさんがお勧めしてくれたのもあるけど、元々乗りたい車だったんだ…センスが合うってこういう事だね」
革のシートは初対面の私の体をしっとり受け止めてくれる。メーターのグラフィックはカラフルで…詳しくないけれど最新機能の車なんだろうなと思った。
「お似合いだと思います」
「うん、自信持って…可愛い車に乗ってくよ」
「ところで、今日の行き先は?」
「あー、2泊3日の有馬温泉。1時間半くらいかかるよ、休憩しながら行こうね」
「はい」
いきなり温泉か、体を許す覚悟は出来ているのだがすっぴんまで明かさねばならないか。少々覚悟が揺らいで拳をぎゅうと握り込む。
でも年上の男性としっぽり温泉旅行なんて、初めての経験に心と胎がじゅんと熱くなってきた。
「…どうかした?」
「…いえ?ちょっと…緊張しちゃった」
「きん…あ、いや、そんな気にしないで、あの……普通にしてて、ごめん…いや…そうだよね…エロ親父みたいでごめん」
「そんな歳じゃないでしょう…変なの」
確かに小さな私を従えて浴衣で歩く姿はちょっと危険な匂いがするのかもね、けれど古湊さんは充分若く見えるし実際まだ若い。
「んー…そうだ、その…折角だから…僕のことも名前で…咲也って呼んで欲しい」
「咲也…さん」
「いいね」
そう言いサムズアップして笑う横顔はやはり若々しくて可愛かった。
数回のデートをしてみて私は自分の気持ちに気付いていて、告白を受けた時よりも彼への感情はより桃色で柔らかくふわふわしたものになっている。
ただの撮影の空気マジックではなかった、なんとなくで流された訳ではなかった。仕事に対する姿勢も無邪気な笑顔も魅力を感じて…私は今夜、彼への好意に自信を持って抱かれたい。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる