親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Past me, present me

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 それからもちょくちょく撮影をしては古湊さんに誘われ食事をしたり映画を観たり、おそらくデートと呼ばれるお出掛けを数回こなした。

 季節はもう冬。12月に入りブランドカタログ冬号の表紙を飾ったのは私と古湊さんのスーツの写真で…ユーザーからの評価は気になるものの増刷もかかっているらしく商品の注文もまずまずの滑り出しのようだ。

「ライムさん…あのさ、今度…旅行に行かない?」
本日のデートはディナーからの夜景ドライブ、街を望む高級住宅団地の公園に車を停めて彼は私にそう尋ねる。
「旅行…日にち次第ですけど」
「ライムさんに合わせるから…年末か年始か、どの辺りがいいかな」
「んー」
 まとまった冬休みというものは無いけれど正月期間はパソコン教室は休講だった気がする。
 脳内でカレンダーをめくる私の緊張感の無さを見れば彼は意を決した様に
「あのさ、お泊まり、なんだけど」
と言い直した。
「え、」
「嫌、なら良いんだ、でも…いや、はっきり伝えてないのがいけないのか…その…本名で呼ぶよ、ラムさん、」
「はい」
「好きだ、僕と…付き合って欲しい」
 あぁやはりそうなんだ、そりゃあ好意も無しに何度もデートしたりディナー奢ったりしないか。
 私は遂に来たかと
「……は、い」
と応える。
「…なんか淡々としてるなぁ…そういう所も好きなんだけど…うん、なので、予定を…ラムさんに決めて欲しい」
「あー、はい…」
 私は今さら事態を把握してスマートフォンの生理予測アプリを開いた。
 このまま予定通りだと年末年始は体調が良さそう、
「じゃあ…年明けのこの辺りでどうですか」
と普通のカレンダーで示せば古湊さんは画面の明かりに照らされてニィと笑う。
「はぁー…告白とか久しぶりだったんだ…心臓バクバクだよ」
「緊張されたんですね」
「ラムさんが緊張しなさ過ぎなんだよ!……その、結構男慣れしてる?」
「そこまででは。まぁオラオラ系の人とばっかり付き合ってたんで肝は据わってるかもです」
「そうかぁー…見限られないよう頑張るよ」
 確かに古湊さんは私がこれまでに交際したことがないタイプの男性だ。オラついてもないし意識は高いけれどそれは虚勢ではなく本物だし穏やかで優しい。
 私の恋愛遍歴なんて語るだけ無駄というか…『小さい私』を従えて悦に入りたい男としか付き合ったことがない。直近の彼氏は体が大きくて「昔はヤンチャしてた」といい歳して吹聴する馬鹿だった。それでも私を守り可愛がってくれたので好きだったけど飽きたからといって一方的に振られた。
 実際には標準体型の女性と浮気をしていたらしい。私はまるでお人形遊びの人形のようにぽいと捨てられたのだ。
「古湊さんは…優しいから…」
「ありがとう、これからよろしくね」
「はい」
 夜景をバックに告白されてもちょっとしか高鳴らない毛の生えた心臓、しかし噛み締めるとだんだんとぽっぽと温もって居た堪れなくなる。
 数回のデートで会話もはずむし食や価値観などの相違も知って、決定的に無理な項目は無かったように思うしむしろ合っている。じわじわと穏やかに心が体が『古湊さんの恋人』になっていく感じがした。
 そして旅行先ではセックスしちゃうんだな、それまでに決定的に好きになれてるといいな。

 車内で軽めのキスをして、彼は私を自宅まで送って帰って行った。


「好きは好き、なんだけど…ここまで落ち着いてると思わなかったな」
 親と暮らす家の風呂に浸かり、ぼうっと色んなことを考えては顔に付いたしずくを手で拭く。
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