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大人編
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しおりを挟む季節は流れて翌年1月。
地元ではなく本土の大きな会館で成人式が執り行われ、渉と千鶴ももちろんそこへ参加となった。
「渉、式の後は酒呑んで暴れる子が毎年出とる、あんたもそうならんように!」
「母ちゃん安心してくれ、ワシ暴れる前に吐くもん」
「情けないねぇ」
「ふふっ」
渉は祖父に仕立ててもらった紋付袴を堂々と着こなし、千鶴は近くの美容院で着付けとヘアセットをしてもらって由恵が車で会場まで送って行く。
「お待たせ…あらちーちゃん、素敵よ、渉見て、ほらぁ、」
「おー…おう、おー…」
「キレイじゃわぁ、なぁ、渉、」
「ちょい母ちゃん、黙ってくれ」
千鶴の振袖は大人しめの紺地、上前から裾にかけて鶴と牡丹があしらわれており帯も同系色のもので上品に纏めている。頭は前髪を残した新日本髪、アップでまとめて牡丹の飾りを差してもらいこちらも華やかになっていた。
「…チィ、お嫁さんみたいじゃ、キレイ」
「ありがと、渉くんもカッコいいよ」
「ふふ…このまま挙式したいくらいじゃ」
「早い早い…」
普段は着けない口紅で千鶴はニンマリ笑い、その艶やかさに渉はくぅと胸を押さえて慶びを噛み締める。
「帰ったら写真も撮ろうな、な、」
「うん、刈田家のお庭がいいかな」
「…千鶴じゃけぇ鶴柄にしたんか?」
「うん、シャレみたいだけど…せっかくだからね」
「ほうか、縁起がええわな、うん」
・
高台にある県営の大体育館で式典は行われ大きな混乱も無く閉会、千鶴も渉も同級生との久々の再会を存分に楽しみ由恵の運転で自宅を目指した。
「そうじゃチィ、前に言うた車な、納車されたんじゃ、後で見てくれ」
「そうなの?良かったね」
「中古もええとこじゃけどな、カッコええけぇ」
「へぇ」
車の良さは分からないがこれだけ目を輝かせるのだからよほどなのだろう。まるで一国一城の主にでもなったかのような渉の顔を千鶴は微笑ましく見つめる。
そして刈田家のガレージで黒のスポーツカーをお披露目されて、それをバックに数枚写真を撮らされた。
「これが良かったの?」
「車屋で一目惚れじゃな。10年以上昔の車よ、でもカッコええし。会社の人も乗りよったし。ヤンキーっぽいし」
「まだ不良ぶりたいの?」
「雰囲気だけな。燃費とかクッソ悪いけど遠出もせんし…まぁ飾りじゃな」
「はぁ」
試しに助手席に座らせてもらうと胎を底から混ぜくり返すような音と振動に千鶴はビックリしてしまい、試乗は遠慮してそそくさと母屋へ逃げ入る。
「ちーちゃん!久しぶり、」
「美月ちゃん、大きくなったねぇ」
玄関で出迎えてくれたのは13歳になった妹の美月、彼女はいつの間にか千鶴の背を追い越し、兄たちも通った中学で学生生活を送っていた。
「ちーちゃん可愛い♡写真撮ろう」
「うん、はいチーズ♡」
「もう1枚♡」
「……」
ガレージから戻った渉は千鶴の反応の差に愕然とし、キャッキャウフフの横をすり抜けて台所で1杯水を飲む。
「おう、戻ったか」
奥から父・剛がなんとなくよそ行きの服で現れて正装の渉を出迎えた。
「ただいま」
「ん、酒盛りでもするか?」
「ええわい…吐いて汚すわ」
「ははっ…ほうか…渉、ちーちゃんはキレイじゃのぅ」
「じゃろう?ワシの…自慢の彼女よ」
「言いよるなぁ、ははは…うちの由恵に勝てるかの?」
ちなみにこの後剛はご馳走の準備をする由恵の尻を撫でて大目玉を喰らい、足りない刺身醤油の買い出しに行かされる。
・
「…ちーちゃん、結局…どうかの、渉と…添い遂げてもええと思うか?」
着付けを解いて花山家も呼んでの昼の宴会後。ノンアルコールビールの空気で酔って寝てしまった文雄と渉を尻目に剛が千鶴へと問い掛けた。
「ん、……あ、げほっ…」
「気持ちは変わっとらんか?」
「あのっ…けホ……か、変わってない、渉くんと…仲良くしていきたいと思って…ます、」
「ん…嬉しいのぉ…したらちーちゃん、ワシのことは親父じゃ思うてくれ、敬語も無しじゃ…ほい、もう1杯」
「うん…ととと、」
意外や呑めるクチだった千鶴は剛の酌をグラスで受けて、軽く掲げちびちびと喉へ流していく。
「ははは……嬉しいのぅ、次の代に会社と家を継げる、男として仕事をやり切った感があるわ」
「まだまだだよ、おじさん。私に仕事教えてくれなきゃ」
「事務は由恵に聞いてくれ、…ほうじゃのぅ、ちーちゃんは由恵を目指してくれ。あれはできた事務員じゃ、場所はとるがの、ははは」
XLの事務服を着こなす由恵はまぁ細くはないのだが、ハラスメントの空気を察したのか由恵は台所からこちらへ
「なんか言うたぁー?」
と声を投げて来た。
「いーや、なんも」
「あーそうー」
「ひひひ…地獄耳じゃのぅ、抜け目がない、さすがじゃ」
「おじさんったら…」
剛もだいぶん酔っていて、その後由恵が熱いお茶を運んで来た時にはそのふくよかな太ももに頭を載せて撫で回すので…千鶴は将来の義両親兼上司のイチャつきをドキドキしながら見守るのだった。
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