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黒乃

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第三話

第四十五節 良き門出

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 長く寒い冬を超え、春の訪れももうすぐそこまで迫っていた3の月の上旬。ミズガルーズ国立魔法学園では、中等科の卒業式が開かれていた。穏やかな天候で迎えたその日は、卒業生たちの門出を祝っているかのよう。学園長の長い話や卒業生代表の言葉を聞く時間は気が重いと予想していたが、思ったよりすぐに過ぎるというもので。式はあっという間に終わりを告げていた。
 そして式が終わった後は各クラスに戻り、最後のホームルームの時間を過ごした。進学先によっては、ここでお別れするクラスメイトもいる。スグリもそんな生徒の内の一人だ。数日後には、ミズガルーズ国家防衛軍士官学校の寮へ向かうことが決まっている。クラスメイトの中には彼と同じ道に進む生徒もいるが、三年間共に過ごした友人たちとは離れ離れになってしまう。担任の言葉を最後に解散となり、最後の語らいとして彼はしばらくの間、教室で友人たちと語らう。

 思えばこの三年間、本当にいろんなことがあった。一年生の時に起こした喧嘩騒動の時には、ヤクだけではなく彼らにも救われた。

「しっかしまぁ、ベンダバルが士官学校に進むなんてな」
「意外か?」
「いんや、案外ありえそうだなっては思ってた。お前自分のことはともかく誰かのためってなると、人一倍働いていたしな」
「あー確かに。お人よしにもほどがあんだろーよ」
「まぁだからこそ、士官学校に入学するって聞いた時は妙に納得できたわ」
「言えてる。頼んだぜ未来の軍人サマ」
「お前ら馬鹿にしてねぇか?」

 そう言って笑いあえるこんなやりとりも、しばらくお預けとなるだろう。悔いが残らないようにと会話を楽しむも、そんな時間も瞬く間に過ぎてしまうもの。帰宅の時間が刻一刻と迫っていた。

「それで、いつから士官学校に行くんだ?」
「来週に寮への引っ越し作業があるんだ。そのあと4の月が始まるまでに、いくつかオリエンテーションがあるって言ってたな」
「想像以上にハードみたいだな……さすが士官学校」
「といっても、同期の顔合わせみたいなものだって。本格的な訓練は4の月が始まってからだからな」
「そっか、頑張れよ」
「ああ、お前らもな」

 最後に互いの今後の健闘を称えて、学園の校門まで向かう。校門前では、ヤクが自分の友人たちと別れを告げている場面に遭遇した。彼も己の友人たちとの別れを惜しみながらも、笑顔で最後の言葉を交わせたようだ。学園を後にする友人たちの姿を見送り振り向いたヤクと、視線が合った。軽く手を挙げて挨拶すれば、ヤクも同じように手を振る。

「悪い、待たせたか?」
「大丈夫。今終わったところだから」
「そっか。なら、帰るか」
「そうだね」

 卒業証書を片手に帰路につくスグリとヤク。学園生活を振り返りながらの帰宅も、今日が最後だ。二人は互いに、色んなことがあったと思い出しながら言葉を交わす。一年生の時の喧嘩騒動と謹慎期間、他にも体育祭だったり文化祭だったり楽しい催し事や苦しかったテスト期間など。多くのことを学べた三年間だったと語る。

「三年前はただ強くなりたいって思って学園に行くって決めたけど、それだけじゃないこともたくさん学べた。こんなに楽しく過ごせるなんて、正直思ってなかった」
「満足してるか?」
「うん、大満足。ルーヴァさんの言ってたことが分かったよ」

 ──人間関係はもちろんのこと、世間を知ることができる。さらに言えば、自分の体の中をめぐる力を理解することで、自分の新しい可能性を見出すことができる場所なんだよ。

 ヤクが自分の手のひらを見つめながら呟く。

「何も分からないことだらけだったけど、自分の力の正体を知れたし友達ってものがどれだけ自分の心の支えになるかも、理解することができた。どれもこれも、学園に通わなかったら分からなかったことばかりだよ」
「そうだな。そういう意味では、お前が自分から学園に通うって決めたことは正解だったってことになるな」
「うん。だからこそ、僕は新しくできた友達たちも守れるように強くなりたい。それがきっと、ルーヴァさんの恩返しにも繋がるって信じてる」
「それを聞いたら、ルーヴァさんきっと喜ぶぜ」
「まだ秘密にしておいて。僕がもっと成長してから伝えたいんだ」

 彼の言葉に頷きながら、内心本当に成長したなと感慨深く思う。それが自分のことのように嬉しく、またここまで強くなった彼に対して安心感も覚えていた。今まで彼を守るためにと過保護になっていたかもしれない、と一人反省してから笑う。

「なら、これからも頑張らないとな」
「わかってる。スグリも頑張るんでしょ?」
「当たり前だろ。将来立派な軍人になるためにも、これからも精進するさ」
「負けないよ」
「お、言ったな?」

 そう笑いながら孤児院に帰宅した二人。こうして、スグリとヤクの三年間のミズガルーズ国立魔法学園での学園生活は、幕を閉じるのであった。

 卒業式から一週間後。孤児院の彼らの部屋からは荷物が消え、ベッドと勉強机だけが残る寂しい部屋となる。今日は引っ越し当日。粗方荷物をまとめた二人はこれから、ミズガルーズ国家防衛軍士官学校の寮へ向かうことになる。
 これまで住んできた孤児院とも、お別れだ。孤児院で今も暮らしている他の子供たちはもちろん、今までお世話になったリゲルや他の孤児院の職員が、二人を見送るために孤児院の入り口で待っていた。子供たちからはこれまでの感謝の手紙が送られ、職員たちからは激励の言葉を受け取る。そして最後にリゲルが一歩前に出て、スグリとヤクに声をかけた。

「苦しくなったら、いつでも帰ってきなさい。部屋はそのままにしておくから」
「リゲル……ありがとう。でもきっと大丈夫だ」
「はい。次に帰ってくるときは、立派な軍人になった時です」
「ははは、そうかそうか。ではその時を、楽しみに待っているとしよう」

 握手を交わし、孤児院を後にする。いってらっしゃい、と背後から激励の言葉を受ける。その言葉にスグリとヤクも振り返り、大手を振る。

「いってきます!」

 彼らに負けないように返事を返し、二人は士官学校の寮へと赴くのであった。

 ******

 ミズガルーズ国家防衛軍士官学校、学生寮。すでに数名の生徒は寮に到着していたようで、自分たちの部屋で荷物を整理している。スグリとヤクも同じように、割り当てられた部屋へと向かったのだが──。

「まさか、また同じ部屋になるなんてな」
「そうだね、掲示板に張り付けてあった割り当て表を見た時は驚いたよ」

 二人の名前は同じ部屋番号の欄に書かれてあったのだ。これには二人して驚きつつも、どこか安心感を覚えた。まったくの初対面の人物と同室になるよりも、顔見知りと同室になることの方が、精神的な面で大いに助かるというもの。変に相手に気を使わなくて済むということは、新しい環境で過ごすことにおいては重要だ。変にストレスを抱えなくて済むのは助かる。

 確かに以前参加した士官学校の説明会で、部屋割りは魔術専攻科と剣術専攻科でペアを、医療専攻科とメカニック専攻科でペアを組まされると聞いてはいた。ヤクが魔術専攻科に進みスグリが剣術専攻科に進んだ時点で同室になる可能性があったとはいえ、まさかルームメイトになれるとは思っていなかったのだ。

 また、士官学生は同じ部屋のルームメイト同士がそのままコンビを組み、三年間を生活することになる。部屋ごとに成績表があり、パートナーとなった二人の成績の評価が高ければ高いほど、のちの進路にも大きく影響を及ぼす。二人は既にお互いの得意不得意を理解しているため、様々な面で補い合うことができる。ここまで幸先がいいことは何よりも僥倖だと言えた。

「これも何かの縁だな」
「確かに。でもルームメイトがスグリで安心した」
「それは俺も同じさ。っと、ここだな」

 部屋の場所を確認して入室した二人は、早速荷解きを開始する。二段ベッドは上がヤク、下がスグリに決まる。クローゼットに士官学生用の制服をしまったり、配布された教科書などを整理していく。そしてようやくすべてが片付いてから、スグリは自前の刀を空いていた自分のスペースに飾った。

「よし、終わったな」
「明日が確か、一度目のオリエンテーションだったよね」
「ああ、そうだったはずだ。顔合わせって言っても、数人見覚えがあるけど」
「緊張してないの?」
「思ったよりはって感じかな。そりゃ、まったく緊張してないって言ったらウソになるけど。俺には目標があるから」

 一度飾った刀を手に持つ。そう、ミズガルーズの剣術ではなくアウスガールズの、古郷で使われていた剣術で強くなること。そしてその力で、守りたい人を守れるような自分になる。それが、スグリが立てた目標だった。

「僕も、いつかルーヴァさんに恩返しができる自分になるって目標があるから。だからスグリには、負けないよ?」
「へぇ?言ったな~?」
「うん、言ってやった」

 ヤクの思わぬ返しに一瞬呆気に取られるが、途端におかしくなったのか互いに笑う。一通り笑ってから、スグリはヤクに拳を突き出す。それが意味するところを察したのか、ヤクも同じように拳を握ってから突き出していたスグリの拳にそれを当てる。

「頑張ろうな」
「お互いに、ね」

 どうやらこれからの士官学校での生活も、退屈はしないようだ。これからの生活に期待に胸を膨らませながら、その日は就寝することにしたスグリであった。
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